文春オンライン

MUISO夜鷹とすずめ隊は諦めない様の作品

 

 

 

住宅街には1メートル近い積雪が残り、春の到来はまだ遠いと感じられる3月下旬の北海道・旭川市。わずかに解け始めた市内の公園の雪の中から、市内に住む中学2年生、廣瀬爽彩(さあや)さん(14)が、変わり果てた姿で見つかった。最愛の娘を亡くした母親は、自身のSNSで辛い胸の内を冒頭のように綴った。

※本記事では廣瀬爽彩さんの母親の許可を得た上で、爽彩さんの実名と写真を掲載しています。この件について、母親は「爽彩が14年間、頑張って生きてきた証を1人でも多くの方に知ってほしい。爽彩は簡単に死を選んだわけではありません。名前と写真を出すことで、爽彩がイジメと懸命に闘った現実を多くの人たちに知ってほしい」との強い意向をお持ちでした。編集部も、爽彩さんが受けた卑劣なイジメの実態を可能な限り事実に忠実なかたちで伝えるべきだと考え、実名と写真の掲載を決断しました。

 

 

爽彩さんは今年2月13日の夕方18時過ぎに自宅を出たきり、行方不明になった。家族や友人、ボランティアらが1カ月以上にわたって必死に捜索したが、ついに彼女が再び我が家に戻ってくることはなかった。

雪解けにより発見されたが、遺体は凍った状態だった

捜索を行った近親者が、遺体発見当時の状況を語る。

「爽彩さんが見つかったのは自宅から数キロ以上離れた公園の中です。発見時の服装は軽装で、薄手のパンツとTシャツ、上にパーカーを羽織っていただけでした。検死の結果、死因は低体温症と判断されました。死亡日時は、2月中旬とまでしか断定できないそうです。

爽彩さんが家出した日は、氷点下17℃以下の凍てつくような日でした。極寒の中、あの軽装で外にいたのでは、正直3時間くらいしか体力的にもたなかったのではないでしょうか。公園で力尽きたであろう爽彩さんの上に、その後どんどん雪が積もった結果、誰も発見できないまま、3月下旬になってしまいました。

暖かくなり、少し雪が解けたことにより遺体の一部が見えるようになった。公園の近くに住んでいる住民がその遺体を発見し、警察に通報したのです。駆け付けた警察がスコップで雪を掘って、爽彩さんを外に出しました。彼女の遺体は冷たく、凍った状態でした。

 

 

彼女の死が自殺だったかどうかはわかりません。確かに失踪当日、自殺についてLINEでほのめかしていたものの、どこまでその意志があったのかは不明です。なぜ公園にいたのか、その経緯や亡くなった際の詳しい状況もよくわからないので、自殺とは断定できないそうです」

前途ある14歳の少女にとって、あまりに残酷な最期だ。爽彩さんの身に一体何があったのか。

「性的な辱め」のトラウマに苦しんでいた

「文春オンライン」編集部に爽彩さんの母親の支援者から連絡が寄せられたのは、彼女の遺体が発見されてから1週間後のことだった。この支援者によると、爽彩さんは2019年4月、地元のY中学校に通うようになってすぐ、近隣の小中学校の生徒から「性的な辱め」を受けた過去があり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症、死亡する直前までそのトラウマに苦しんでいたという。

取材班は旭川に向かった。だが、関係者に多くの未成年がいることを鑑み、未成年の関係者への取材は保護者を通じて申請するなど取材は可能な限り慎重に進めた。

 

 

取材班は支援者を通じて爽彩さんの母親にも取材を申し込んだ。母親は憔悴しきっていたが、「本当はお話しするのもつらいのですが、これ以上同じようなことが二度と起きてほしくない。そして爽彩が生きていたということを知ってほしい」と、取材を受諾してくれた。

最後の会話は「気を付けて行ってきてね」

2006年に旭川で生まれ育った爽彩さんは母親と市内のアパートで2人暮らしだった。母親は爽彩さんが幼かった約10年前に夫と離婚し、シングルマザーとして娘を育ててきた。爽彩さんが失踪した2月13日のことは、これまで何度も思い返しているという。

「あの日は、夕方5時頃に私が仕事で家を空けなくてはならなくなったんです。自分の部屋にいた爽彩に『ちょっと1時間だけ空けるんだけど、すぐ戻ってくるね。戻ってきたら焼肉でも食べに行く?』と声を掛けたら、『今日は行かない。お弁当買ってきて。気を付けて行ってきてね』と。まさか、それが娘との最後の会話になってしまうとは考えもしませんでした。

私が家を出て1時間くらいたったときに警察から携帯電話に着信がありました。出ると、男の警察官が『家の鍵を開けてください』ってすごい勢いで急かすのです。もしかして娘の身に何かあったのかもしれないと思い、急いで帰宅しました。

自宅に戻ると家の前にはすでに多くの警察の方が集まっていて、『爽彩ちゃんの安否確認をお願いします』と言われました。それで、すぐに家の中に入ったのですが、部屋の灯りはついていた。でも、つい1時間前まで部屋にいた爽彩の姿はもうありませんでした」(爽彩さんの母親)

 

 

 


ゼボット様の作品

 

 

 

「ねぇ」「きめた」「今日死のうと思う」

「学校にも外にも行けず、ここ1年ほとんど引きこもっていた娘には、ディスコード(ゲーマー向けのボイスチャット)で知り合った友人がいました。家を出る直前の17時半くらいに娘はその友人に、

『ねぇ』

『きめた』

『今日死のうと思う』

『今まで怖くてさ』

『何も出来なかった』

『ごめんね』

と、LINEでお別れを告げていたのです。他にも同様のメッセージを受け取っていた方が数人おり、そのうちの1人が警察に『旭川の〈ひろせさあや〉という子が自殺を仄めかしている』と、通報してくださったそうです。その通報を受けて、私の携帯電話に警察から電話があったのです」(同前)

 

 

ビラ1万枚を用意しての大捜索

爽彩さんの行方がわからなくなった2月13日18時の気温は氷点下17℃以下。成人でも長時間外を歩き続ければ命に関わるほどの酷寒。しかし失踪当日の爽彩さんの服装は軽装で上着も自宅に置いたままだった。現金も所持していなかった。母親が娘の携帯に何度電話しても、電源が入っていなかったため繋がらず、携帯に内蔵されているGPSも機能しない。居場所はわからなかった。

それでもパトカーによる捜索は続けられ、警察犬も投入された。失踪翌日には、ヘリコプターによる上空からの捜索も行われた。その後、親族とボランティアが協力して、爽彩さんの写真や特徴を記したビラを1万枚用意しての大捜索も行った。

 

 

「捜索する側とビラを配る側とに分かれて捜しました。当時通っていたX中学校の先生も毎日探してくれた。ボランティアの方が地元のラジオ局に爽彩のことを伝え、(ラジオで)呼びかけてくれたりもしました。旭川以外にも捜索範囲を広げて、100キロ以上離れた札幌でもビラを配るなどして捜しましたが、娘を見つけてあげることはできませんでした」(同前)

失踪から38日が経った3月23日、悲報が母親に

それにもかかわらず、失踪から19日が経った3月4日、捜索は手詰まりとなり、警察は公開捜査に踏み切った。そして、失踪から38日が経った3月23日の14時半、悲報が母親の元へ伝えられた。

「警察から電話がかかってきて、身元の確認のため、安置された旭川東警察署に来てほしいと言われました。『絶対に爽彩じゃない。あの子は生きている』って思っていたから、警察に『違います』と、言おうと思っていました。でも、警察署に行って、安置所で遺体を見たら、間違いなくあの子だったんです。娘は凍っていました。私は何度も娘に謝りました」(同前)

部屋から『ごめんなさい』『殺してください』と独り言が

取材は爽彩さんが暮らした自宅の居間で行われ、母親の他、親族や支援者も集まった。仏壇には、優しく微笑む爽彩さんの遺影が飾られていた。

「今でもあの子を産んだ時のことは忘れません。3384グラムの元気な女の子でした。小さいころから健康優良児で食べることが大好きで、元気に学校に通っていたころは『今日給食でおかわり5回した』なんて話してくれる子でした。自然がいっぱいある緑に囲まれたベンチで静かに勉強するのが好きで、鳥の鳴き声も好きって言っていた」(同前)

 

 

爽彩さんの親族も声を震わせる。

「遺影は8カ月前の昨年の夏に、爽彩が久しぶりに外に出て、お友達と偶然会った時に、みんなで撮ったものにしました。生まれた時から七五三などの節目のイベントがあるたびに写真館で写真を撮っていたんです。

でも、中学校に入ってイジメを受けた後は、あの子は引きこもるばかりで、ほとんど写真が撮れなかった。

以前は『将来は法務省で働いて正義の味方でいたい』ってよく言っていました。『検察官ではなく、弁護士はどうなの?』って聞いたら『爽彩は悪い人の味方はしたくない』って。

でも、イジメを受けてからは全部変わってしまった。自己否定を何度も繰り返し、部屋から『ごめんなさい、ごめんなさい』『殺してください』と独り言が聞こえてくるようになった。『外が怖い』と外出も出来なくなってしまいました。

絵が昔からとても好きな子でね、いつもカラフルな明るい絵を描いていたのですが、それも随分とテイストが変わりました」

 

 

イジメの後は描く絵のトーンも暗くなった

爽彩さんが家に引きこもるようになった2019年の秋以降に描かれたイラストがここにある。それまで描いていた色彩豊かな調子はなくなり、色はモノトーンに。ある絵には「ムダだって知ってるだろ」との言葉が書き込まれていた。彼女の心の叫びだったのだろうか。

 

僅か14年の人生に幕を下ろし、母親を残して天国へと旅立った爽彩さん。彼女を精神的に追い詰めたイジメの壮絶さは取材班の想像を絶するものだった。大人たちの知らないところで、爽彩さんの尊厳を踏みにじるような“事件”が起きていたのだ――。

 

なぜ、中学2年生の少女がこのような悲惨な死を遂げなければならなかったのか。「文春オンライン」取材班が現地で取材を進めると、爽彩さんは2019年4月、Y中学校に入学してからほどなくして、警察が捜査に動くほどの凄惨なイジメを受け続けていたことがわかった。爽彩さんは今年2月の失踪直前まで、イジメによるPTSDに悩まされ、入院と通院を続けながら自宅に引きこもる生活が続いていたのだ。

イジメ集団と中学近くの公園で出会ってしまった

爽彩さんの母親がイジメの事実を知り、「娘の様子がおかしい」と、親族に相談を持ち掛けたのは、爽彩さんがY中学校に入学してから2カ月経った6月のことだった。親族の1人は「イジメにあった後の爽彩は、それまでとは別人のように変わってしまった」と悔しさを滲ませる。

「もう元の爽彩ではないんですよね。何て言うんだろう。イジメを受ける前と後の爽彩は、周りの誰が見ても明らかに違ったんです。以前は笑って外に出かけたりして、勉強も好きな子でした。『将来は検察官になる』と言っていた子が、イジメを境に学校にも塾にも行けなくなってしまいました。医者からはPTSDと診断され、やがては自分の部屋に引きこもってしまった。時々、部屋からは『ごめんなさい、ごめんなさい』と独り言が聞こえて、何かに謝っているようでした」(同前)

 

2019年4月、爽彩さんは地元のY中学校に入学した。学区の関係で、爽彩さんが通った小学校からこの中学校へ進んだのはわずか数名。爽彩さんはクラスになかなか馴染めなかったという。

きっかけとなったイジメグループとの接点は、中学入学から間もない4月中旬、中学校の近くにある児童公園で生まれた。緑溢れるその公園は付近の小中学生のたまり場だったという。

「爽彩は中学に入学してからはいつも、塾に行く時間が来るまで、そこで勉強をしたり、小説を読んだりして過ごしていました。やがて、その公園で、同じ中学の先輩らと顔見知りになる中で、2学年上のA子と知り合ったのです。

最初のうちA子とは、公園で話したり、夜に帰宅してからは音声を繋ぎながらネットゲームをしていたようです。ただ、A子の友人のB男と、近隣の別のZ中学校に通うC男がグループに加わると様子がそれまでとは変わっていきました。夜ゲームをしている時も、わいせつな会話をしながら、ということが増えていったそうです。この頃から、A子、B男、C男らによるイジメが始まったようなんです」(同前)

 

 

天真爛漫だった爽彩さんの表情からは笑顔が消え、家でも暗く思い悩んでいる様子を見ることが多くなった。5月には、生まれて初めて母親に「ママ、死にたい……」と洩らしたという。前出・親族が続ける。

「今までそんなこと言ったことがなかったのに、部屋からぽっと出てきて『ママ死にたい、もう全部いやになっちゃって』と。母親が『何があったの? イジメとかあるんじゃないの?』と聞くと、『大丈夫。そういうのじゃない』と答えたそうです。

ゴールデンウィークには、深夜4時くらいにB男らにLINEで呼び出された爽彩が、いきなり家を出て行こうとしたところを母親が止めるという出来事もありました。母親がいくら止めても、爽彩は『呼ばれているから行かなきゃ』と、すごいパニックを起こしていた。ようやく引き止めたものの、その後もひどく怯えていたそうです」

C男が脅迫《動画送って》《写真でもいい》

 

 

一体、爽彩さんの身に何が起きていたのか。のちに母親らが警察やイジメグループの保護者などに聞きとって判明したのは、C男が爽彩さんに対して、しつこく自慰行為の動画や画像を送るよう要求していたことだった。取材班も現地関係者に取材する中で、C男が爽彩さんに対して送っていたLINEのメッセージを確認した。

6月3日、C男は爽彩さんに対して、次のLINEメッセージを送っている。

《裸の動画送って》

《写真でもいい》

《お願いお願い)

《(送らないと)ゴムなしでやるから》

C男は爽彩さんに自慰行為の写真を携帯のカメラで撮って送るようしつこく要求。まだ12歳だった爽彩さんは何度も断ったが、上記のような暴力をちらつかせ脅迫するようなメッセージもあり、恐怖のあまり、自身のわいせつ写真をC男に送ってしまったという。それを機に、A子、B男、C男らによるイジメが目に見える形で露骨になってきた。

母親が何度も相談したが、担任教師は「イジメはない」

「A子はそのことがあった後に、爽彩に『大丈夫だった?』『私はあなたの味方だから』と言って、親切な友達のように装っていました。しかし、その一方では、C男が爽彩のわいせつ画像を入手したことを知ると、『私にも送って』と催促。C男はA子に爽彩の画像を転送したそうです。その後、複数の中学生が入っていたグループLINEにその画像が拡散されたこともありました」(前出・親族)

 

 

怯える愛娘の異常な様子に心配した母親は、何度も中学校の担任教師に「娘はイジメられているのではないか」と相談したという。

「4月に1回、5月に2回、6月に1回、担任の先生に『イジメられていますよね? 調べてください』とお願いしたが、担任の先生からは『あの子たち(A子ら)はおバカだからイジメなどないですよ』『今日は彼氏とデートなので、相談は明日でもいいですか?』などと言って取り合ってくれなかったそうです」(同前)

複数で取り囲み、その場で自慰行為をするよう強要

イジメは、さらに凶悪で陰険なものとなっていった。6月15日、爽彩さんはA子らにたまり場の公園に呼び出されたという。

「当時、公園には緑が生い茂り、外から園内は見えにくくなっていました。A子、B男、C男に加え、C男と同じZ中学校のD子、E子も後からやってきました。さらに公園で遊んでいた小学生も居合わせ、複数人で爽彩を囲んだのです。

そして『爽彩が男子中学生に裸の画像を送らされたり、わいせつなやりとりをしていた』という話を男子生徒が突然し始めると、周りを囲んだA子やD子、E子ら女子中学生が『それ今ここでやれよ。見せてよ』と、爽彩にその場で自慰行為をするよう強要したのです。

 

 

その後、『公園では人が来るから』とA子らは、爽彩を公園に隣接する小学校の多目的トイレに連れ込み、再び自慰行為を強要しようとしました。複数人に取り囲まれ、逃げ出すことも助けを呼ぶこともできず、爽彩は従うしかなかった」(同前)

爽彩さんは、この“事件”が起きたころから自暴自棄になり、執拗なイジメに対して「もう好きにして」「わかった」と、答えるようになった。もはや抵抗する気力も残っていなかったのだろう。

 

 

誰にも相談できず、凄惨なイジメに耐え続けていた爽彩さんだったが、その後、イジメはさらにエスカレート。ついには、4メートルの高さの土手から川へ飛び込むという事件にまで発展してしまうのだ――。

 

川へ飛び込んだ事件で、警察も出動

さらに取材を進めると、2019年6月22日に爽彩さんがA子ら10人近くに囲まれた挙げ句、4メートルの高さの土手を降りて、川へ飛び込んだ事件が起きていたことがわかった。この件では、警察も出動した。

 

この“飛び込み事件”は、地元の情報誌「メディアあさひかわ」(2019年10月号)が報じている。

記事は「自身の不適切な写真や動画を男子生徒によってSNSに拡散されたことを知った女子生徒が精神的に追い詰められ、橋から飛び降りて自殺未遂を図った」と伝えている。

爽彩さんの母親の親族が説明する。

「記事は主犯格の人間を間違えていたり、事実と異なる部分もありますが、爽彩が川に飛び込んだことは事実です。現場は、彼女が過去に凄惨なイジメを受けた、小学校近くの児童公園の前を流れるウッペツ川でした」

 

 

取材班も現場を訪れた。川沿いの遊歩道は柵で通行止めされており、乗り越えなければ川岸には近づけない。川岸の土手は川面から4メートルほどの高さがあり、コンクリートで舗装されている。ウッペツ川は、川幅3メートル、水深は1メートルほどの小さな川だ。近隣に住宅はあるが、人通りは少ない。

「助けてください」爽彩さんは中学校に電話したが…

「その日は雨が降っていたんです。夕方6時頃、加害グループのA子、C男、別の中学校の生徒や小学生ら計10人以上がウッペツ川の土手の上に集まった。これは事件後に爽彩の母親が本人から聞いた話ですが、1人の生徒が笑いながら、『今までのことをまだ知らない人に話すから。画像をもっと全校生徒に流すから』などと爽彩に言ったそうです。『やめてください』と爽彩がお願いしたら『死ね』と言われたと……。

『わかりました。じゃあ死ぬから画像を消してください』と爽彩は答えたそうです。しかし、別の生徒が『死ぬ気もねぇのに死ぬとか言うなよ』と煽った。そこから集まった全員に煽られ、爽彩は柵を乗り越え、コンクリートの土手を降り、ついに川へ飛び込んだのです。“自殺未遂”というより、イジメグループたちから逃げるためには川に飛び込むしかなかったのです」(同前)

 

 

川へ飛び込む直前、爽彩さんは中学校に「助けてください」と、助けを求める電話をしていた。すると、連絡を受けた学校から母親の元にも「今から公園近くの川にすぐに来てください」と電話があった。母親は急いで現場へ向かったという。

「母親が川に着いたときには、爽彩は男の先生たちに抱えられていました。着ていたジャージはずぶ濡れで、川から引き揚げられた直後だったそうです。爽彩は『もう死にたい』と泣き叫んでいて。その様子を、他の加害生徒たちは公園側の遊歩道から柵越しに見ていただけだったそうです」(同前)

「川に飛び込むとき、みんなが携帯カメラを」目撃証言

 

 

この“事件”の一部始終を川の対岸から目撃していた人物がいたという。

「その方(目撃者)が川に飛び込んだ爽彩を心配して、警察に通報したのです。その方は『私見てたの、1人の女の子をみんなが囲んでいて、あれはイジメだよ。女の子が川に飛び込んだときにはみんなが携帯のカメラを向けていた』と爽彩の母親に話したそうです」(同前)

取材班はこの目撃者にも話を聞こうとしたが、すでに亡くなっていることが現場周辺の聞き込みでわかった。

イジメ発覚を恐れた加害少年らは警察に虚偽の証言

幸い川に飛び込んだ爽彩さんに大きな怪我はなかった。だが、イジメの発覚を恐れた加害少年らは、のちに駆け付けた警察に対し、「この子はお母さんから虐待を受けていて、虐待がつらいから死にたくて飛び込んだ」と虚偽の説明をしたという。

 

 

最悪なことに、加害少年の虚偽証言を警察が鵜呑みにしたため、爽彩さんの母親は、爽彩さんの病院へ付き添うことを止められたのだという。

「しかし、その後になって警察が調べて、虐待の事実はないことがわかり、母親は入院する爽彩と面会できるようになりました。

川へ飛び込んだ日の夜、爽彩のスマホが母親へ返却されました。母親が電源を入れましたが、当時ウッペツ川周辺で警察に『爽彩の友達だ』と証言していた生徒らからは、心配するメッセージや着信も一切ない。不審に思い、念のために爽彩のLINEを開くと、そこには、A子やB男、C男らによるイジメの文言や画像が残っていたのです」(同前)

加害少年のスマホから上半身裸や下半身露出写真も

この“事件”をきっかけに警察もイジメの実情を認識した。事件から数日後、爽彩さんのスマホのデータからイジメの事実を掴んだ旭川中央署少年課が捜査を開始。当初、加害少年らは自身のスマホを初期化するなど、イジメの証拠隠滅を図ったが、警察がそのデータを復元し、彼らが撮ったわいせつ動画や画像の存在が明らかになった。

 

 

そして、刑事らによってイジメに加わった中学生と小学生ら全員が聴取を受けた。母親も警察から事件の概要を聞かされて初めて、爽彩さんが受けていたイジメの全容を知ることとなったという。前出・親族が続ける。

「母親は、警察から『爽彩さんで間違いないか』と加害者が撮った写真の確認をさせられたそうです。その写真というのが酷いものだった。爽彩の上半身裸の写真や、下半身を露出させた写真や動画があったのです。上半身裸の写真には、爽彩の顔は写っていませんでしたが、服は爽彩のものでした」

C男は児童ポルノ法違反も、14歳未満で刑事責任を問えず

捜査の結果、わいせつ画像を送ることを強要した加害者であるC男は、児童ポルノに係る法令違反、児童ポルノ製造の法律違反に該当した。だが、当時14歳未満で刑事責任を問えず、少年法に基づき「触法少年」という扱いになり厳重注意を受けた。A子、B男、D子、E子らその他のイジメグループのメンバーは強要罪にあたるかどうかが調べられたが、証拠不十分で厳重注意処分となった。現場となった公園はその後、小学生の立ち入りが禁止されたが、加害者側は誰一人処罰されることはなかった

 

「しかし、彼らは反省すらしていなかったのです。捜査終了後、警察を通して、爽彩の画像や動画のデータは加害者のスマホからすべて削除させたのですが、翌日に加害者のひとりがパソコンのバックアップからデータを戻して加害者たちのチャットグループに再び拡散。その後、警察がパソコンのデータを含め拡散した画像をすべて消去させても、データを保管したアプリからまた別の加害者が画像を流出させたりと、その後もわいせつ画像の流出が続きました」(同前)

中学校、教育委員会は「お答えできません」

結局、退院した爽彩さんと母親は、2019年9月に引っ越しをし、市内の別のX中学校へ転校することになった。しかし、爽彩さんはイジメの後遺症に苦しめられ、医者からはPTSDと診断された。ほとんど新しい学校に通うことができず、自宅で引きこもる生活を余儀なくされた。

その後1年以上にわたりイジメによるPTSDで悩まされた爽彩さんは、今年2月13日に失踪すると、3月23日変わり果てた姿で、見つかったのだった。

爽彩さんと加害者が通っていた地元のY中学校にイジメについて事実確認を求めたが、中学校は「個人情報により、個別の案件にはお答えできません」と回答した。同中学校を指導する立場にある旭川市教育委員会にも事実確認を行ったが、「個別の案件にはお答えできない」と答えるのみだった。

 

Y中学校に在籍していた教師を直撃

事件当時、このY中学校に在籍していたある教員は、イジメの事実を認め、取材班にこう語った。

「加害生徒には厳しく指導をしました。泣いて反省する子もいれば、ウソをついてほかの生徒に責任を擦り付けようとする子もいるなど、子供たちの反応はバラバラでした。爽彩さんがどうやったら学校に戻れるかについて、教職員間で話し合いを始めた矢先に、転校してしまった」

A子、B男、C男、D子、E子ら加害少年グループのメンバーは爽彩さんが亡くなったことについて、いま何を思うのか。取材班は彼らの保護者にアポイントを取り、保護者同伴のもとで彼らに話を聞いた――。

 

 

 

 

 

イジメは常軌を逸するほどエスカレートし、2019年6月には爽彩さんが加害少年ら10人以上に囲まれ、ウッペツ川に飛び込む事件が起きると、警察もイジメの実態を把握するために捜査に乗り出した。

わいせつ画像を送ることを強要した加害少年のC男は児童ポルノに係る法令違反、児童ポルノ製造の法律違反に該当したが、当時14歳未満で刑事責任を問えず、少年法に基づき、「触法少年」という扱いになり厳重注意を受けた。A子、B男、D子、E子らその他のイジメグループのメンバーは強要罪にあたるかどうかが調べられたが、証拠不十分で厳重注意処分となった。

 

爽彩さんへのイジメが発覚してから2年。中学を卒業し、旭川市内に住む加害少年らから話を聞こうと、取材班は少年少女の保護者にアプローチをした。するとA子とB男は保護者と一緒に取材に応じ、C男とD子、E子は保護者が取材に応じた。

わいせつ画像を目にしたことは「あります」

わいせつ画像の拡散が疑われたA子は現在16歳。茶髪にピアスという出で立ちで年齢よりも大人びて見える。

――爽彩さんとはどのような関係でしたか?

「友達」

 

――彼女のわいせつ画像を持っていましたか?

「持ってない」

――A子さんがC男くんに「爽彩さんのわいせつ画像を送ってほしい」と言ったという証言もありますが事実でしょうか。

「ない」

――わいせつ画像を目にしたことはありますか?

「あります」

自慰行為を強要した時の経緯

――公園で爽彩さんが自慰行為を強要された件は覚えていますか?

「……いや。あ、(自分も)いた」

――誰が指示をしていたのでしょうか?

「あぁ、それはD子が言ってた」

――自慰行為を強要されて、爽彩さんは嫌がっていたのではないですか?

「うーん……まぁ、うん」

 

――どういう経緯でそうなったのでしょうか?

「えぇ? そのときC男もいたから、C男が写真の件の話を出して、じゃあできるならここでやってみろよ、みたいな。確か。それでD子がやれって言った」

――その時、A子さんはどうしていましたか?

「うちとB男は離れてた。その場から。見たくもないし聞きたくもないし」

「どっちにせよ最終的には(自慰行為を)やってるんだから」

――A子さんがイジメの主犯格だったという証言もあります。

「私ではない。別のZ中学の子(C男、D子、E子)が私を悪者にしている」

――これらの行為をイジメだと思いませんか?

「うーん……別にどっちでもないんじゃないです? 本人最初嫌がっていたとしても、どっちにせよ最終的には(自慰行為を)やってるんだから」

――爽彩さんがウッペツ川へ飛び込んだ事件については覚えていますか?

「あれは(爽彩さんが)自分から飛び込んだ」

――どうしてそうなったのでしょうか?

「どうして? わかんないです。死にたくなったんじゃないですか?」

 

――爽彩さんに向かって「死ぬ気もないのに死にたいとか言うなよ」と言っていたという証言があります。

「それは言いました。周りに小学生いるのに死にたい死にたいとか、死ぬ死ぬとか言ってて、どうせ死なないのに次の日またあそこの公園に現れてたから。小学生にはそういうのはダメでしょ? と思って言ったんです」

亡くなったと知って「正直何も思ってなかった」

――爽彩さんが亡くなったと知ってどう思いましたか?

「うーん、いや、正直何も思ってなかった」

A子に長時間話を聞いたが、最後までイジメに対する謝罪も、爽彩さんが亡くなったことに対するお悔やみの言葉もなかった。

「強要とか脅しはないです」

取材班は爽彩さんのわいせつ画像を拡散させたとされるB男にも話を聞いた。

「爽彩と出会ったのは2019年の4月頃で、別の友達と(オンラインゲームの)『荒野行動』で遊んでいたら、ゲーム上で繋がって遊ぶってなった。印象は普通の子だった。(C男が爽彩さんにわいせつ画像を撮らせた経緯は)わからない。C男が爽彩とビデオ通話してそれをスクショして送ったみたい。最初はC男、A子と自分のグループLINEに送られてきた。自分は誰にも送っていない」

――爽彩さんに自慰行為を強要したことはありますか?

「C男、D子、E子が『やってほしい』みたいになって、自分とA子はどっちでもよかった。正直、自分はあんまり見たくなかったからフードをかぶって見ていないけど、他の4人は見ていた。(自慰行為のときは公園に)人が来るから小学校の男女共用のトイレに移動してやらせていた。みんなそこに入っていったけど、俺はさっきと同じで見てはいない。時間は10分とか5分とか。強要とか脅しはないです」

 

――爽彩さんが川へ飛び込んだ事件の現場にはいたのでしょうか?

「その場にはいなかったけど、A子から電話がかかってきた。C男が爽彩の仕草をしつこく真似した。それが爽彩は嫌だったみたいで、キレて自分で川の下へいったみたい」

――爽彩さんのわいせつ画像を削除したと聞きました。

「警察に呼ばれたとき、携帯を見せてその場でデータを消した。学校からは5回くらい呼ばれて、怒られるというよりは『何があったのかちゃんと話して』という感じだった」

B男は「悪ふざけ」とだけ答えた

改めて、「公園で爽彩さんに自慰行為をさせたことを、イジメと認識していますか?」と問うと、B男はたった一言、「悪ふざけ」とだけ答えた。

爽彩さんにわいせつ画像を送らせ、警察から「触法少年」の処分となったC男。C男の保護者が取材に応じた。

冗談紛れでわいせつ画像を送ってほしいと言った

「(C男は)いいも悪いも何もわからないでやってしまったんです。どういうものか知らなくて興味本位で言ったと思うんです。C男の話では冗談紛れで(画像を送ってほしいと)言ってたら、爽彩さんが本当に自分で撮って送ってきたらしいんですよ。息子も初めて見て驚いてすぐに消したんですけど、その前にA子さんに『送って』としつこく言われて、(A子に)送っちゃったみたいです。C男はそのあとに画像データをすぐに消していて警察も確認済みです」

 

――爽彩さんに自慰行為を強要させた場にもC男君はいました。

「女の子たちがやったことですよね。うちは男の子なので女子トイレには入っていないし、もう1人の男の子と公園にいたらしいです。(爽彩さんは)『嫌だ』って泣いたから結局やっていないと聞いていました。みんな嘘をついているのか、隠しているのか、自分を守りに入っちゃうし、本当のところはわからないです」

――C男君は《(画像を送らないと)ゴムなしでやるから》と爽彩さんにLINEを送ったという証言もあります。

「それはないですね。絶対にないです」

爽彩さんに「私は独り」と相談されていた

――爽彩さんは拡散されたわいせつ画像や強要された自慰行為のことがトラウマとなっていました。

「きっかけにはなったとは思います。うちの息子もすごく反省しました。でも、(爽彩さんが)家出とかを繰り返していたのはご存知ですか? 親とうまくいってなかったそうで息子は爽彩さんに『私は独り』と、相談されていたと聞きました。

 

本当に短期間であんな事件になってしまって、A子ちゃんは夜まで公園にいてだらしなかったから、すごく胸騒ぎがして『付き合うのはやめなさい』ってずっと言ってたんですよね。そう言っているときにあんなことになっちゃって……。警察の前でLINEも消して、もう事件の子たちとは一切付き合いはないです。

うちにも娘がいるので、もし自分の子がと思ったら……。息子にはすごく怒りました。息子もやってしまったことは悪いですけど、隠れている部分やイジメを認めない人とかたくさんいるので、悔しいのは正直あります」

D子とE子の保護者は「自分の子どもは偶然その場に居合わせていただけだ」と説明。E子の保護者は「娘は(自慰行為を)『やれ』とは命令していない。娘だけでなくみんなで『できるの?』と聞いた」と話した。D子の保護者は「今思えばイジメだったと思う。娘も反省している」と語った。

一方、B男の保護者は「子供たちが(事件に)関わる前から、(爽彩さんの)家庭環境にも問題があり、正直全部こっちのせいにされている」と語った。

爽彩は離婚後に交際したパートナーとも仲が良かった

 

 

4月12日、爽彩さんの四十九日法要を終えた爽彩さんの母親に再び話を聞いた。加害少年の保護者から爽彩さんの家庭の問題を指摘する声が上がっていることについて聞くと、静かにこう語った。

娘を育てるために仕事で忙しく、家を空けることもありましたが、それ以上に愛情を込めて育ててきました。離婚したあとにお付き合いした人もいました。爽彩が小学校低学年の頃からパートナーの男性と3人でゲームをしたり、食事に行ったり、その相手と学校の行事に行くこともありました。爽彩もパートナーの実家に行きたいと言い出して一緒に行ったり、男性とワカサギ釣りに行って楽しそうにしていました。

爽彩の希望ならと塾に通わせたときに一度、帰宅途中に迷子になったり、塾に『行きたくない』と言い出すこともありました。娘はパートナーの方に悩みを相談するほど距離も近く、その日に学校であったことを自分から笑顔でたくさん話す子だったんです」

加害者の子たちが不幸になってほしいとは思いません

しかし、イジメの被害に遭ったあとは「ママ、死にたい」「ごめんなさい、ごめんなさい」と、爽彩さんは錯乱を繰り返すようになり、笑顔も消えてしまった。

 

「娘は簡単に死を選んだわけじゃないと思います。泣かないと決めていたのに、すみません……。何があったとしてもイジメをしてもいいという免罪符にはなりません。許されることではないし、とても悔しい気持ちですが、加害者の子たちが不幸になってほしいとは思いません。ただ、イジメって簡単に人が死んでしまうということを知ってほしい。イジメは間接的な他殺です。せめて、反省だけでもしてほしいです」

それだけ言うと、唇を強く結んで母親はもう何も語らなかった。

旭川はこれから遅い春を迎える。桜の開花は2週間後の予定だ。だが、母親がともに春を迎えるべき最愛の娘ははるか遠くへ旅立ち、もう二度と帰ってこない。

 

 

「爽彩さんが亡くなったことを受けて、もう一度、命の大切さについて私のほうから生徒たちに伝えようと考えました。生徒たちも全員私のほうをちゃんと見て、真剣に聞いてくれていました。爽彩さんには、ただただご冥福をお祈りするしかないなと、本当に痛ましく悲しいことだなと受け止めています」(X中学校校長)

4月15日、旭川市内のX中学校では、体育館に学年ごとに生徒が集められ、「命の大切さを訴える会」が開かれた。この中学校は今年2月13日、氷点下17℃の夜に自宅を飛び出して行方不明となり、3月23日に公園に積もった雪の中で変わり果てた姿で見つかった、当時中学2年生の廣瀬爽彩さんが最後に在籍していた転校先の学校だ。X中学校の校長は、同校の生徒である爽彩さんが痛ましい最期を遂げてしまったことの無念さを訴え、改めて「命の大切さ」について、生徒たちに真摯に語り掛けた。

Y中学校の関係者は誰一人葬儀にこなかった

「文春オンライン」では、これまで亡くなった爽彩さんが壮絶なイジメの被害に遭っていたことや失踪前に医師からPTSDと診断され、そのフラッシュバックに悩まされていたことを報じた。

 

3月下旬に市内で行われた爽彩さんの葬儀には、親族や爽彩さんを探すために尽力したボランティアなど、多くの人が訪れた。爽彩さんは家にひきこもり、学校にも行けない生活を続けていたが、X中学校の校長や担任教師も参列したという。爽彩さんの親族が語る。

「爽彩の小学校のときの同級生やX中学校のクラスメイトの子たちも来てくれました。FacebookやTwitterを見た全国の方から香典もいただきました」

 

一方、爽彩さんが2019年4月から9月まで在籍したY中学校の関係者は誰一人、葬儀にはやってこなかった。爽彩さんはY中学校に入学した直後から、同校に通う上級生のA子、B男、別の中学に通うC男らからイジメを受けていた。爽彩さんの母親は何度も当時の担任の教師や学校に「娘がイジメられている」と訴えたが、Y中学校に母親の声は届かなかった。

「もっとY中学校が真摯に対応してくれていれば、爽彩へのイジメがこれほどエスカレートすることもなかったのではないか。そう思うと残念でなりません」

前出の親族はこう語るとため息をついた。取材班が、Y中学校のイジメへの対応に問題がなかったか取材を進めるとY中学校のあまりに杜撰な対応の実態が明らかになった。

担任は「B男はちょっとおバカな子なので気にしないでください」

2019年4月、爽彩さんがY中学校に入学した直後から始まったイジメは凄惨なものだった。彼女にわいせつ画像を送らせ、それをLINEグループ内に拡散。その後、小学生を含む複数人で爽彩さんを囲み、自慰行為を強要するという事件も起こった。爽彩さんの母親は娘の異変に気付き、学校側に何度も相談したという。前出の親族が語る。

「担任の先生には母親が4月から6月の間に計4回ほど相談しました。『イジメありますよね? 調べてください』と何度も電話で伝えました。でも、訴えの電話をしたその日の午後や次の日には担任の教師から折り返しの連絡がきて、『本当に仲のいい友達です。親友です』という答えが返ってくるだけでした。母親はあまりの返答の早さに、しっかり調査をしたのかと不信感を抱いていました。

爽彩自身も担任の先生にイジメの相談をしたことがあったそうです。ただ、『相手には言わないでほしい』と言ったのに、その日の夕方には加害生徒に担任の教師が直接話をしてしまったそうです。爽彩は担任の先生には『二度と会いたくない』と言っていました。

ゴールデンウィークの深夜に、爽彩が上級生のB男から呼び出され、非常に怯えていたことを担任に伝えても『(B男は)ちょっとおバカな子なので気にしないでください』『今日は彼氏とデートなので、相談は明日でもいいですか?』という答えで、事態の深刻さを理解していないようでした」

 

 

ウッペツ川の事件をきっかけに入院した爽彩さん

6月、爽彩さんが地元のウッペツ川へ飛び込んだ事件が発端となって、警察が捜査を開始。わいせつ画像を送ることを強要した加害少年のC男は児童ポルノに係る法令違反、児童ポルノ製造の法律違反に該当したが、当時14歳未満で刑事責任を問えず、少年法に基づき、「触法少年」という扱いで厳重注意を受けた。A子、B男、D子、E子らその他のイジメグループのメンバーは強要罪にあたるかどうかが調べられたが、証拠不十分で厳重注意処分となった。事件後、爽彩さんは心身のバランスを崩し、長期入院を余儀なくされた。

 

 

「Y中学校の教頭や先生は爽彩が入院していた病院にお見舞いに来てくれて、『がんばれー、爽彩さん』と励ましてくれました。母親は『爽彩との時間を大切にしたい』と毎日、病院へと通う一方、何度かY中学校にも呼ばれて、学校側から加害生徒の聞き取り調査の経過報告などを受けていました。ただ、母親は爽彩のイジメに相当ショックを受けていて、心労が重なり、体調を崩すことがあったんです。そのため、Y中学校側との話し合いの場には代理人の弁護士に行ってもらうことにしたんです」(同前)

弁護士の同席を認めず「加害生徒にも未来がある」

母親としては、弁護士にはあくまで自身の代理として調査結果の聞き取りなどを行ってもらう予定だったが、Y中学校側は急に態度を硬化させた。前出の親族が続ける。

「母親が弁護士の同席を学校側に求めたら『弁護士が一緒では話すことができない』と、母親一人で来るように指示を受けました。母親は仕方なく、体調がすぐれない中一人で学校へ行きました。その話し合いの場で、教頭先生から『わいせつ画像の拡散は、校内で起きたことではないので学校としては責任は負えない』『加害生徒にも未来がある』などと突然告げられたそうです。その話を母親から聞かされた爽彩は『どうして先生はイジメたほうの味方にはなって、爽彩の味方にはなってくれないの』と泣いたそうです」

 

 

その後、加害者のC男、D子、E子が通っていたZ中学校から「加害者の保護者から謝罪の場を設けてほしいという要請があった」という連絡がY中学校にあった。そこでY中学校とZ中学校は検討を重ね、合同で「加害生徒と保護者が、爽彩さん側に謝罪する会」を開く予定で進めることになった。

しかし、爽彩さん側が、謝罪の会に弁護士の同席を求めると、Y中学校は同席を拒否。Z中学校は同席を認めたため、結局、謝罪の会はY中学校とZ中学校別々で行われることになった。

 

 

Z中学校では「見ていただけ」と言い訳する加害生徒も

2019年8月29日の夕方、爽彩さんの母親と弁護士、加害者C男、D子、E子と自慰行為の強要の場に居合わせた複数の小学生とその保護者らが出席して、Z中学校での「謝罪の会」は実施された。母親の支援者が打ち明ける。

「Z中学校からは爽彩さんを連れてきてほしいと言われましたが、爽彩さんは出席できる状況ではなかったので母親と弁護士だけで出席しました。20名ほどが集まった教室で最初に校長先生が『うちの生徒が申し訳ありませんでした』と謝罪しました。その後、加害者と保護者は廊下で待機。教員立ち会いのもと、母親と弁護士の待つ教室に加害生徒とその保護者が一組ずつ入ってきて話し合いを行いました。爽彩さんが公園で自慰行為を強要された際に、中学生の加害生徒らと一緒に爽彩さんを囲んだ小学生の両親は泣いて謝るケースがほとんど。しかし、中学生の加害者の中には表向きは謝ったものの、『私たちは(イジメを)見ていただけ』と言い訳をする者もいた」

Y中学校では「音声の録音は禁止」「教員は全員退席」のうえ…

紛糾したのはY中学校での「謝罪の会」だ。Y中学校も最終的には弁護士の同席を認め、Z中学校から遅れること2週間、2019年9月11日に会は開かれた。爽彩さんの母親と弁護士、A子、B男とその保護者がY中学校のミーティング用の教室に集まった。

「音声の録音は禁止され、学校は『弁護士が同席するのなら教員は同席しません』と、最初に学校側の校長と教頭が挨拶だけして教員は全員退席しました。あくまで学校側は場所を貸すだけということだったようです。母親が鮮明に覚えていたのは、その場でのA子の態度です。イジメのことを尋ねても『証拠はあるの?』と逆にこちらに突っかかってきたり、足を投げ出してのけぞって座ったりと、とても反省している様子は見られなかった。その様子を見てもA子の保護者は注意することもなく、『うちの子は勘違いされやすい。本当は反省している』と言っていたそうです。A子の担任の先生が同席していれば、また違ったのかもしれないですが、あまりに酷すぎます。一体何のために集まったのかよくわからない会だったと話していました」(同前)

 

 

謝罪の会が開かれる前に、爽彩さんは病院を退院。しかし、医者からはPTSDと診断され、イジメによる後遺症に悩まされた結果、2019年9月に引っ越しをし、X中学校に転校することになった。

「Y中学校の教頭先生からは『退院したらまた学校に』と、言ってもらいましたが、拡散されたわいせつ画像を先生やクラスメイトに見られたかもしれないわけです。そんな中で思春期の女の子が今まで通り同じ学校に通学することができると思いますか。それにY中学校には加害者もいて、イジメの事実を正式に認めていません。そんないい加減な学校に娘をまた預けることができる親がどこにいるのか。

Y中学校は事件後に加害生徒から聞き取った調書を冊子にまとめているのですが、母親がいくら『イジメの真相を知りたい』と訴えても見せてくれませんでした。弁護士を通して、学校と市の教育委員会に情報開示請求を何度も行っても、すべて拒否されています」(前出の親族)

 

 

Y中学校の担任教師を直撃「私からはお話することはできません」

なぜ、Y中学校はイジメの初期のころから真摯な対応をしてこなかったのか。取材班は4月10日、爽彩さんの当時の担任教師に話を聞いた。

――爽彩さんの母親からイジメの相談があったと思いますが、適切に対応されましたか?

「学校でのことは個人情報なのでお話することができません」

――なぜ、謝罪の会に先生は立ち会わなかったのですか?

「学校でのことは個人情報なのでお話することができません」

――爽彩さんにお悔やみの言葉はありますか?

「すみませんが、私からはお話することができません」

どんな質問をしても当時の担任から語られるのは、どこか他人事のような同じ台詞だけだった。時折、マスクの裏で苦笑いを浮かべていたことに取材班は驚きを隠せなかった。

取材班は4月11日、爽彩さんがY中学校に在籍していた当時の校長を直撃した。

 

「(ウッペツ川に飛び込んだ事件について)お母さんの認識はイジメになっていると思いますが、事実は違う。爽彩(さあや)さんは小学校の頃、パニックになることがよくあったと小学校から引継ぎがあり、特別な配慮や指導していこうと話し合っていました。爽彩さんも学級委員になり、がんばろうとしていた。でも川へ落ちる2日前に爽彩さんがお母さんと電話で言い合いになり、怒って携帯を投げて、公園から出て行ってしまったことがありました。

何かを訴えたくて、飛び出したのは自傷行為ですし、彼女の中には以前から死にたい気持ちっていうのがあったんだと思います。具体的なトラブルは分かりませんが、少なくとも子育てでは苦労してるんだなという認識でした。ただ、生徒たちが爽彩さんに対して、悪い行為をしたのも事実です。その点に関してはしっかり生徒に指導していました。

我々は、長いスパンでないと彼女の問題は解決しないだろうから、お母さんに精神的なところをケアしなきゃない問題だって理解してもらって、医療機関などと連携しながら爽彩さんの立ち直りに繋げていけたらなと考えていました」

凄惨なイジメ被害に遭った廣瀬爽彩さんが通っていたY中学校の当時の校長は、約2時間にわたって「文春オンライン」の取材に応じたーー。

担任の教師に4度イジメについて相談したが…

氷点下17℃の2月13日の夜に自宅から行方不明となった旭川市内に住む当時中学2年生の廣瀬爽彩さん(14)。家族や親族、ボランティアが懸命な捜索を続けてきたが、3月23日に雪の中で変わり果てた姿で見つかった。

 

亡くなった爽彩さんは生前、凄惨なイジメに遭っており、医者からPTSDと診断されていた。失踪する前もそのフラッシュバックに悩まされていたという。

2019年4月、爽彩さんがY中学校へ入学した直後からイジメは始まった。上級生のA子やB男、C男が爽彩さんにわいせつ画像を送らせ、その写真をグループLINE内に拡散。その後、生徒のたまり場となっていた公園で、小学生を含む複数人で爽彩さんを囲み、自慰行為を強要することもあった。爽彩さんの母親は4月から6月の間に、担任の教師に4度「娘がイジメに遭っているかもしれない」と訴えたが、学校側はまともに取り合わなかった。

 

弁護士の同席を求めるとY中学校の対応が急変

6月に爽彩さんが地元を流れるウッペツ川へ飛び込んだ事件が発端となって、警察が捜査を開始。わいせつ画像を送ることを強要した加害少年のC男は児童ポルノに係る法令違反、児童ポルノ製造の法律違反に該当したが、当時14歳未満で刑事責任を問えず、少年法に基づき、「触法少年」という扱いで厳重注意を受けた。A子、B男、D子、E子らその他のイジメグループのメンバーは強要罪にあたるかどうかが調べられたが、証拠不十分で厳重注意処分となった。事件後、爽彩さんは心身のバランスを崩し、長期入院を余儀なくされた。

この間、Y中学校と爽彩さんの間で、イジメ問題の解決に向けて話し合いが続けられていたが、母親が話し合いの席に弁護士の同席を求めたところ、Y中学校の対応が急変した。学校側は弁護士の同席を認めず、母親側が事件後に学校が加害生徒を聴取した冊子の情報開示を求めても一切応じなかった。

9月にY中学校で開かれた、加害生徒と保護者が爽彩さんの母親らに「謝罪をする会」には、Y中学校の教師が立ち会うことはなかった。爽彩さんの親族は「学校側がもっと真摯に対応してくれていれば、イジメがここまでエスカレートすることはなかったのではないか」と無念の言葉を漏らした。

なぜY中学校はイジメの問題に対して、真摯に対応してこなかったのか。4月11日、爽彩さんが在籍していた当時のY中学校の校長を直撃した。

イジメがあるというアンケート結果は上がっていない

――爽彩さんが亡くなったことは知っていましたか?

「2月にいなくなったことは聞いていて、1カ月も経って遺体で発見されたと、ネットで初めて知りました。学校にいた生徒ですからね、中には入らなかったですけど葬儀場の近くまで行って、外から手を合わせました。なんとかしようというのはあったと思うんですけど、居た堪れない」

――爽彩さんの母親からイジメの相談があったときに調査をしましたか?

「生徒間のトラブルや、些細なトラブルがあれば情報共有することを学校側ではしている。もし、イジメがあれば把握はします。毎年5月にイジメに関するアンケート調査を実施していますけど、(イジメが)あるという結果はあがってないです」

――それでイジメはなく、爽彩さんが抱えているのは家庭の問題だと判断したと。なぜそのような判断になったのですか?

「(ウッペツ川への飛び込み事件があった)当時、教頭先生からの話では、爽彩さんを川から引き上げた時にお母さんを呼んで引き渡そうとしたが、本人(爽彩さん)が帰りたくないと大騒ぎしたそうです。子供の問題の背景に家庭の問題というのは無視できないですから」

――加害生徒たちが爽彩さんに対し、卑劣な行為を繰り返していたのも事実です。加害生徒への指導は適切に行いましたか?

「指導する立場ですから。あくまで(学校は)警察ではないので、しっかり指導はしました。警察が動いているときは、(イジメの)話題には触れないで下さいとあったので(そのように)対応してます」

――先生たちの対応や指導に対して、加害生徒たちはどういう反応でしたか?

「それについてはお話しすることが出来ません。学校内で起きたことを個別でどういうことを指導しているかについて、学校として他に喋ることはできない。そんなことをしたら生徒に対する裏切りになる」

――亡くなった爽彩さんは失踪直前までにこの件でPTSDとなり、「死にたい」と親族に話していました。

「爽彩さん本人と話せなかったですし、そこまでに至らなかった。ですから転校した後も関係した生徒と保護者、爽彩さんのお母さんを交えて話し合いをしています」

 

 

弁護士を同席させることは「教育者としてありえない」

――2019年9月11日に行われた「謝罪の会」ですね。学校側として、弁護士の同席を拒否しようとしたのは事実ですか?

「それは事実です。教育機関のあるべき姿じゃないです。実際に指導の場に弁護士が立ち会うものですか? 僕は入れるべきじゃないって言いました。私たちの学校は被害者と加害者の生徒が絡んでいるんですよ。弁護士がいるなんて子供からしたらどれだけ厳しい状況だと思います? 教育者としてそれはありえない」

 

 

――9月11日の会はどういう目的で開かれた会だったのですか。生徒への「指導の場」としてなのか、それとも爽彩さんへの「謝罪の場」としてなのか?

「最終的には指導の場です。だから謝罪しましょうってなってるんですから」

――学校側が設けたのですか?

「そうです。前からやっていますから、例えば、ケガをさせたりだとか、そういう時は謝罪をしましょうって」

――爽彩さんの代理人弁護士から加害生徒の調書の開示請求が行われていますが?

「それに関してはしっかりと理由を伝えて開示できないと伝えました。(開示できない理由は)顧問弁護士と話し合って決めました。申し訳ないですけど、すべてきちんとやっています」

トラブルに対応はしたが「イジメには至っていない」

――加害生徒の犯したことは指導でどうにかなる範囲を超えていませんか?

「相当の問題ですよ。ただ、その問題の背景もすぐさま見ないと。単に現象だけ見ても実際にあったわけですから。たまたまいて(イジメに)絡んだ子もいっぱいいるんですよ。ですから指導はしていますよ」

――どの事件に関して、指導を行ったのですか?

「ですから、その公園で(自慰行為を強要した事件)……。爽彩さんが入院するに至ったことについて、子供の間でトラブルがあったから対応していました」

 

 

――イジメがあったということですか?

「さっきから、そこまで至ってないって言ってるじゃないですか」

――イジメがあったから指導したのではないのですか?

「だから指導しましたよ。その時にいたみんなに責任あるだろうということで。子供によっては、何を言ったか分かんないけど調子に乗って言ってたと言う子もいたり。ただ、学校としてはその時の場面だけが問題と捉えてなくて、夜中にLINEでやりとりしてたり、それこそ爽彩さんが出て行こうとしたりとかあった。それはお母さんから聞いたから記憶があるんですけど、そういう一連のことも加害生徒に指導してたんですよ」

「子供は失敗する存在です」「学校としても本当に苦労した」

――自慰行為を強要すること自体が問題だと思いますが。

「子供は失敗する存在です。そうやって成長していくんだし、それをしっかり乗り越えてかなきゃいけない」

――学校の指導によって、加害生徒は反省していましたか?

「僕が生徒に指導した時も、命に関わるんだぞ、どれだけ重大な事をやってるのか、わかっているのかと。素直にまずかったっていう子もいたし、最後の最後まで正直に話せなかった子もいる。公園で以前、小学生とすごく卑猥な話をしていて近所から通報があった問題の子もいたけど、指導しても認めない。自分の子供のやった事に向き合えない保護者もいて、学校としても本当に苦労したのは事実です。逃げ回って人のせいにして自分は悪くないとかではなく、心の底から反省したら本人が立ち直るんだし、そこに気づかせて二度とそういう事をしないようにしないといけない」

 

 

――警察の捜査が終わり、2019年7月まで加害生徒の指導を続けたそうですが、爽彩さんとはどのように向き合いましたか?

「爽彩さんのお母さんと話し合っていこうとしたときに、警察の捜査が始まり、対応も制約を受けてしまった。でも、あの一件はやっぱり整理をつけなきゃいけない。そうでないと何も始まらないって事で、どこが悪かったのかを加害生徒に認識させて、今後どうしたらいいのかを考えさせるって事はやりました。入院中の爽彩さんが退院して学校に戻って来た時に二度とこんな事にならないように、その為には色々課題があるという話をしたかったんですけど、突然、転校してしまった。我々の中では、話し合いの場に弁護士を入れてどうするかっていう話だけが残ってしまったのです」

爽彩さんが亡くなった事と「関連は無いんじゃないですか」

――学校の認識として、イジメはなかったという事ですか?

「そうですね。警察の方から爽彩さんにも聴取して、『イジメはありません』と答えてます。それは病院に警察が聴取に向かって、聞き出したことで、学校が聞き出したことではないです。実際にトラブルがあったのは事実ですけど」

――改めてトラブルがあったのは事実だが、イジメではないということですか?

「何でもかんでも、イジメとは言えない」

――男子生徒が当時12歳の少女に自慰行為を強要して撮影することは犯罪ではないですか?

「当然悪いことではあるので、指導はしていました。今回、爽彩さんが亡くなった事と関連があると言いたいんですか? それはないんじゃないですか」

爽彩さんと加害者生徒らとの間に「トラブル」があったことは認めつつも、それが「イジメ」であるかについては否定。加害生徒に対して適切に指導を行ってきたと主張した。

だが、彼女が凄惨なイジメを受けた結果、医師からPTSDと診断され、その後遺症に悩まされていたのは紛れもない事実だ。

Y中学校の元校長が指摘する「家庭の問題」について、爽彩さんの母親に改めて話を聞いた。

 

 

「爽彩は一人娘で大事に育ててきました。ただ、とても繊細な性格で、宿題をやったのにそれを家に忘れたりすると、嫌になり学校から家に帰ってきてしまうこともありました。走って追いかけられたりするとパニックになることもあり、小学校のときに些細なトラブルがあり、事情をしらない先生が爽彩を走って追いかけてしまい、開いていた教室の窓から外のベランダに飛び越えたことがありました。校長先生はその件のことを言っているのかもしれません。しかし、それを自傷行為と捉えるのは間違いです。もちろんその後もケガもなく普通に授業も受けています。それからこれは(ウッペツ川に飛び込んだ事件で入院した病院を)退院した後に爽彩から聞いたのですが、川に飛び込んだときに『ママに会いたくない』と言ったのは、『警察が来て大事になってしまい、なんでこうなったのかを聞かれると思ったから』と話してくれました。

どこまで何をされたらイジメになるんでしょうか。警察に犯罪行為と認められてもイジメじゃないとまともに取り合ってくれないのなら、親はどうすればよいのか」

学校は子供の命を守る最後の砦といわれる。しかし、爽彩さんはイジメの問題が起きた当時、学校に守られることはなく、今年2月、わずか14年の生涯の幕を閉じた。元校長は加害生徒について、「子供は失敗する存在です。そうやって成長していくんだし、それをしっかり乗り越えてかなきゃいけない」と語ったが、同じ言葉を爽彩さんの墓前で述べることはできるだろうか。

子供の命を救う責任を放棄した教育の場に子供たちの未来はない。

 

文春オンラインが報じたのは、2019年4月から6月に起きた、爽彩さんが当時通っていたY中学校の上級生A子、B男らによる性的な動画を拡散するなどの悪質なイジメ被害の実態。記事公開の直後から旭川市教育委員会などには300件以上の問い合わせが相次いだ。

事態を重く見た旭川市は、4月22日、対応を話し合う総合教育会議を開き、2019年当時は「イジメはなかった」としていたY中学校の調査結果を見直し、改めて、当時「イジメがあったのかどうか」再調査すると決めた。

「旭川市教育員会」「Y中学校」の対応が改めて調査される

西川市長は教育長に旭川市教育委員会とY中学校側の対応を改めて調査するよう指示。医師や臨床心理士、弁護士らに委託して、第三者で作るいじめ防止等対策委員会を設置し、調査を開始する方針を示した。

 

 

報道から1週間。事態はようやく動き出した。爽彩さんの遺族は市の再調査決定をどのように受け止めているのか。あらためて現在の心境を聞いた。

※本記事では廣瀬爽彩さんの母親の許可を得た上で、爽彩さんの実名と写真を掲載しています。この件について、母親は「爽彩が14年間、頑張って生きてきた証を1人でも多くの方に知ってほしい。爽彩は簡単に死を選んだわけではありません。名前と写真を出すことで、爽彩がイジメと懸命に闘った現実を多くの人たちに知ってほしい」との強い意向をお持ちでした。編集部も、爽彩さんが受けた卑劣なイジメの実態を可能な限り事実に忠実なかたちで伝えるべきだと考え、実名と写真の掲載を決断しました。

母親は4回も「娘はイジメを受けているのでは」と学校に訴えた

爽彩さんは今年2月13日、氷点下17℃の夜に自宅を飛び出して行方不明となり、3月23日に変わり果てた姿で見つかった。爽彩さんは医師からイジメによるPTSDと診断され、失踪直前までそのフラッシュバックに悩まされていた。

2019年4月、市内のY中学校に入学した爽彩さんは、ほどなくして上級生のA子、B男、Z中学校に通うC男らからイジメを受けるようになった。爽彩さんの母親は、4月から6月の間に4度、学校に対し「娘はイジメを受けているのではないか」と訴えたが、担任の教師はまともに取り合わなかった。

 

 

同年6月、爽彩さんが地元のウッペツ川に飛び込む事件が起きたのちに、警察が捜査に乗り出し、加害生徒らが爽彩さんに無理やり撮らせたわいせつ画像をイジメグループ内で拡散していたことや、公園内でイジメグループが複数名で爽彩さんを囲み、自慰行為を強要していたこと等が明らかになった。わいせつ画像を送ることを強要した加害少年のC男は児童ポルノに係る法令違反、児童ポルノ製造の法律違反に該当したが、当時14歳未満で刑事責任を問えず、少年法に基づき、「触法少年」という扱いになり厳重注意を受けるのみにとどまった。A子、B男、D子、E子らその他のイジメグループのメンバーは強要罪にあたるかどうかが調べられたが、証拠不十分で厳重注意処分となった。

学校は「校内ではないのでイジメと認識していない」と回答

これらの事実が警察の捜査によって明るみに出たため、爽彩さんの母親は学校側に対して再び、「イジメの事実があったのかどうか」改めて調査するよう訴えてきた(#5参照)。しかし、2019年夏、学校側は最終的に「わいせつ画像の拡散は、校内で起きたことではないので、当校としてはイジメとは認識していない」「加害生徒にも未来がある」などと答え、イジメの事実について否定。あくまで生徒間の「トラブル」だったとして、加害生徒に「適切な指導」を行ったとした(#6参照)。

旭川市教育委員会も同時期に、学校や北海道警察、関係者から聞き取りを行ったものの「イジメの認定には至らなった」と結論付けていた。

 

 

今回の市長の発表は、こうした学校側の対応に行政の側から疑問符を投げかけた形だ。今後、第三者委員会を通して、真相の究明が進むことが望まれる。

「再調査はテレビのニュースで初めて知りました」

一連の発表を受けて、爽彩さんの遺族が文春オンラインの取材に応じた。遺族は「再調査に期待する一方で、第三者で作る委員会がどのような調査方法をとるか、不安です」と明かした。

「西川市長が会見をした日の前日に、爽彩の母親は弁護士を通じて、『明日、市が総合教育会議を開き、爽彩さんの問題について何らかの対応をする』ということを聞いていました。実際に、第三者委員会を設置し、再調査を開始すると決まったことは会見当日の夜、テレビのニュースで初めて知りました。市の教育委員会からは翌23日に弁護士を通じて連絡があり、改めて『イジメがあったか調査する』と伝えられたそうです。

 

 

ただ、母親が不安に思っているのは、その調査方法です。まだ具体的にどのように調査するかは知らされていませんが、当時の関係者への聞き取り調査が行われるのだとしたら、イジメがあったのは今から2年も前のことです。詳細を加害生徒たちは覚えているのでしょうか。記憶が曖昧になったりして、事実とは違う証言が飛び出し、情報が錯綜してしまうかもしれません。また、都合の悪いことについては、ごまかしたり、黙秘を貫くこともあり得るのではないでしょうか。

 

 

自慰強要が記載された「調書」の開示を学校は3度も拒否

第三者委員会の方にむしろ注目してほしいのは、2019年6月から8月にかけて、Y中学校が加害生徒から『イジメの有無』について聞き取った調書です。これはA4用紙30枚ほどからなる冊子にまとまっているはずで、爽彩がわいせつ画像を拡散されたことや、イジメグループに公園で囲まれて、自慰行為を強要されたことについて、加害生徒らが証言した内容が記載されているとされます。

なぜ、その調書の内容について、曖昧な言い方しかできないかというと、これまで母親は学校と教育委員会の双方に対して、この調書の開示請求を3度行ってきましたが、すべて拒否され、我々はその内容を一文字も知ることができなかったからです。

「なぜ中学校はあれほど不誠実な態度だったのかを知りたい」

23日に弁護士を通じて説明した教育委員会の方によると、今後実施される第三者委員会の調査については終了後、結果を報告するが、2019年の調書の公開については、『今後検討する』というニュアンスでした。しかし、母親は、事件当時に学校がどんな調査を行って、どういった認識のもと、あのように不誠実な態度をとってきたのかを知りたい。第三者委員会の方には、その点を何よりも重視して調査していただきたく思います。そして、できれば調査終了後に、2019年の調書についても我々に公開してほしいと思います」

遺族によると、2019年6月、ウッペツ川への飛び込み事件が起きた翌日、爽彩さんの母親はY中学校の教頭から呼び出しをうけた。この時のやりとりも「第三者委員会の調査の判断の決め手」となるのではないかという。

 

 

教頭は証拠LINEを撮影し「調査します」と言ったのに…

「母親は、事件後、爽彩の携帯電話のLINEを確認し、加害生徒にわいせつな画像を送らせられたり、脅されていたことを知りました。そのメッセージについて、警察に相談に行こうとしたのですが、その前にY中学校の教頭にも『こういうものが見つかった』と報告したのです。教頭からは『イジメの証拠はあるんですか? あるなら警察へ行く前に見せてください』と言われ、学校のミーティング教室で爽彩がわいせつ行為を強要されているLINEの画像を直接見せたそうです。

教頭は『写真を撮らせてください。すべて調査します』と、イジメの証拠となるLINEメッセージや画像を1枚1枚、携帯電話のカメラ機能を使って撮っていました。母親はY中学校を信頼して警察よりも先に相談したのです。あの証拠のLINE画像をY中学校は間違いなく把握していた。それなのになぜ『イジメはない』という結論に至ったのか、真相を必ず明らかにしてほしいです」(同前)

旭川市がイジメの再調査をすると発表した翌日の4月23日、爽彩さんが最期を迎えた公園には生花が供えられていた。親子連れが手を合わせていたほか、ずっとその場を離れず涙する保護者もいた。

 

 

正当な調査がなされることを爽彩さんの母親をはじめとする遺族、そして子を持つ多くの保護者が願っている。

 

 

亡くなる約1年前、廣瀬爽彩(さあや)さんは自分が受けた壮絶なイジメの実態について、ネットで知り合った友人に対して下記のようなメッセージを送っていたことが新たにわかった。「文春オンライン」取材班が独自入手した。

その一部を引用する。

《内容を簡単にまとめると

・会う度にものを奢らされる(奢る雰囲気になる)最高1回3000円合計10000円超えてる。

・外で自慰行為をさせられる。

・おな電をさせられ、秘部を見させるしかない雰囲気にさせられて見せるしか無かった。

・性的な写真を要求される。

・精神的に辛いことを言われる(今までのことバラすぞなど)etc……

ありまして、、

いじめてきてた先輩に死にたいって言ったら「死にたくもないのに死ぬって言うんじゃねえよ」って言われて自殺未遂しました》

 

 

今年3月、北海道旭川市内の公園で積もった雪の中で亡くなっているのが見つかった爽彩さん(当時14歳)。死因は低体温症で、警察も自殺とは認定しなかったが、「文春オンライン」では4月15日から7本の記事を公開。その死亡の背景に上級生らからの凄惨なイジメがあったことを報じた。

 

 

無理やり撮らせたわいせつ画像をイジメグループ内で拡散

2019年4月、市内のY中学校へ入学してからほどなくして、爽彩さんは、上級生のA子、B男、Z中学校に通うC男らからイジメを受けるようになった。イジメは日に日にエスカレートし、加害生徒らが爽彩さんに無理やり撮らせたわいせつ画像をイジメグループ内で拡散したことや、公園内でイジメグループが複数名で爽彩さんを囲み、自慰行為を強要したこともあった。

爽彩さんは同年6月に、イジメグループら十数名に囲まれた挙句「死ぬ気もねぇのに死ぬとか言うなよ」と煽られた末に、地元のウッペツ川に飛び込むという“事件”を起こした。この事件ののち、爽彩さんは長期入院を余儀なくされ、同年9月には市内のX中学校へ転校。しかし、X中学校へもなかなか通うことができず、家に引きこもりがちな生活を送るようになった。医師からはPTSDと診断され、イジメのフラッシュバックに悩まされていた。

 

 

校長は「爽彩さんの死亡と自慰行為強要は関連がない」

冒頭の爽彩さんのメッセージは2020年2月に書かれたものだ。この時期、彼女は引きこもりがちになり、依然としてイジメによるPTSDに悩まされていたという。

いかに悲惨な性被害にあったかについて、彼女自身の言葉で綴られている。こうした言葉を綴るだけでも、当時の場面がフラッシュバックし、つらかったのではないか。

取材班は爽彩さんがイジメを受けた当時通っていたY中学校の校長を直撃(#6参照)。校長は「イジメはなかった」「(男子生徒が当時12歳だった爽彩さんに自慰行為を強要して撮影したことが)今回、爽彩さんが亡くなった事と関連があると言いたいんですか? それはないんじゃないですか」などと答えた。だが、少なくとも彼女が、自身が受けた行為を「イジメ」だったと認識し、そのトラウマに悩まされていたことは、今回のメッセージを読めば明らかだ。

 

 

爽彩さんは、ウッペツ川に飛び込んだ事件以降、精神的なショックから入院、2019年9月に退院した後はイジメを受けたY中学校からX中学校へ転校することになった。

「わいせつ画像が拡散された学校への復帰はありえない」

爽彩さんの親族が語る。

「Y中学の教頭先生は『うちの生徒なので戻ってきてほしい』と学校に復帰するよう爽彩に勧めましたが、わいせつ画像が、どれだけ学校中に拡散されたのかもわからない上に、加害生徒がまた近づいてくる可能性もあった。それで学校に復帰なんてありえない。そこでX中学校へ転校することにしました。その際に、自宅も引越ししたのですが、場所は以前の学区からはバスで1本では行けない、離れた場所にしました。しかし、それでも爽彩は外に出ることに怯え、新しい学校に行くことも拒んでしまったのです」

 

 

爽彩さんの「最後の声」を聞いたネット世界の友人

爽彩さんは、家に引きこもりがちになり、もともと関心があったネットやゲームに没頭するようになった。学校に通えなくなった爽彩さんにとって、そこだけが、家族以外にありのままの自分を見せることができる“居場所”だったようだ。

辛くて思い出すのさえ苦しかったはずの「イジメ」の内容について、あえて伝えたのも、相手が唯一心を開くことができるネットの世界の友人だったからだろう。

爽彩さんはそうしたネットの友人たちに、自身が受けたイジメについて相談をしていた。そして、再び学校に通えるよう努力し、なんとか明るい未来を見出そうと必死にもがき、苦しんでいた。

 

 

取材班はそんな彼女の「最後の声」を聞いた友人たちに接触した――。

 

「イジメ事件以降、彼女の心はずっと不安定でした。『1年半以上経っても』って思う人もいるかもしれませんが、彼女は『死にたい死にたい』ってよく言って(綴って)ました。ですが、『死にたいと思う分と同じだけ、本当は生きたい』という想いもあったと思います。必死に生きてきたんです。でも、あのイジメが彼女を壊しつづけた……」

今年3月、北海道旭川市内の公園で積もった雪の中で亡くなっているのが見つかった廣瀬爽彩(さあや、当時14歳)さんと、約4年間ネットを通じて連絡を取り合っていた都内在住のaさん(20・男性)は、「文春オンライン」の取材に、がっくりと肩を落とした。

 

 

今回、取材班は爽彩さんが壮絶なイジメを受けた後、医師からPTSDと診断され、自宅に引きこもりがちになってから頻繁に連絡を取り合っていた3人の友人たちに話を聞いた。彼女が2019年4月にイジメを受けてから、今年2月13日、マイナス17度の極寒の夜に失踪するまでの約600日の間に、一体何が起こっていたのか。それが、彼らの証言によって明らかになった。(<a href="https://bunshun.jp/articles/-/45072″ target="_blank" rel="noopener noreferrer">#8</a>から続く)

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※本記事では廣瀬爽彩さんの母親の許可を得た上で、爽彩さんの実名と写真を掲載しています。この件について、母親は「爽彩が14年間、頑張って生きてきた証を1人でも多くの方に知ってほしい。爽彩は簡単に死を選んだわけではありません。名前と写真を出すことで、爽彩がイジメと懸命に闘った現実を多くの人たちに知ってほしい」との強い意向をお持ちでした。編集部も、爽彩さんが受けた卑劣なイジメの実態を可能な限り事実に忠実なかたちで伝えるべきだと考え、実名と写真の掲載を決断しました。

加害少年C男は児童ポルノ法違反でも「厳重注意」のみ

2019年4月、爽彩さんは市内のY中学校へ入学してからほどなくして、上級生のA子、B男、Z中学校に通うC男らからイジメを受けるようになった。イジメは日に日に過激さを増し、加害生徒らが爽彩さんに無理やり撮らせたわいせつ画像をイジメグループ内で拡散したことや、公園内でイジメグループが複数名で爽彩さんを囲み、自慰行為を強要したこともあった。

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同年6月、爽彩さんが地元のウッペツ川に飛び込む事件が起きたのちに、警察が捜査に乗り出した。その結果、わいせつ画像を送ることを強要した加害少年のC男は児童ポルノに係る法令違反、児童ポルノ製造の法律違反に該当したが、当時14歳未満で刑事責任を問えず、少年法に基づき、「触法少年」という扱いになり厳重注意を受けるのみにとどまった。A子、B男らその他のイジメグループのメンバーは強要罪にあたるかどうかが調べられたが、証拠不十分で厳重注意処分となった。

ゲームでミスしただけで「私はダメな子だ」と塞ぎ込むように

一方、爽彩さんはこの飛び込み事件をきっかけに、長期入院を余儀なくされ、同年9月には市内のX中学校へ転校。しかし、X中学校へもなかなか通うことができず、家に引きこもりがちな生活を送るようになった。医師からはPTSDと診断され、イジメのフラッシュバックに悩まされるようになった。

自宅に引きこもりがちになった爽彩さんにとって、唯一の“居場所”となったのがネットやゲームの世界だ。学校に通えなくなった爽彩さんが、そこでだけ家族以外に「ありのままの自分」を見せていた。

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前出のaさんは2019年4月に爽彩さんへのイジメが始まる以前から、爽彩さんとネット上で親交があった。そしてaさん自身もイジメ被害で苦しんだ経験があるという。

「僕は『#コンパス』というオンラインゲームで彼女と知り合いました。チャットやネットの通話機能で、よく彼女と話をしましたよ。イジメの件が起こる前の彼女は、本当によく笑い、テンションが高く、話したがりの子だったのですが、あの事件以降は浮き沈みが激しく些細なことでもドーンって沈むようになってしまいました。例えば、ゲームで少しミスしただけでも『私はダメな子だ』と塞ぎこんでしまう。もともとネガティブな部分はあったけど、明らかに性格が変わってしまったんです」

「自分が悪い」「お母さんはできることは全部やってくれている」

aさんは爽彩さんが地元の公園でイジメグループに囲まれ、自慰行為を強要されたことについても爽彩さんから知らされていた。さらに2019年6月に、爽彩さんが地元のウッペツ川に飛び込む事件を起こした後にも相談があったという。

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「事件からそれほど経っていなかったと思います。彼女から連絡がありました。最初の頃は自分のなかでも何があったか整理がついていないようでした。『こんなことや、あんなことをされた』って話したのですが、イジメた相手を悪く言うのではなく、『自分が悪いから』って。とても優しい子なんです。

彼女が受けたイジメの詳細を僕に打ち明けてくれた時も『ごめん、嫌な気持ちにさせちゃったよね』って、逆に僕を気遣ってくれた。誰かの悪口を言う子ではなかったです。彼女のお母さんについても『お母さんはできることは全部やってくれている』と感謝していました」

好意を告白したbさんに突然「私は汚れているから」

2019年9月にX中学校へ転校した後、別のネットゲーム上で爽彩さんが出会ったのが、aさんの友人で、今年大学1年生になった関東在住のbさん(18・男性)だ。bさんが語る。

「彼女は家族と一緒に外食をした話をするときが、一番声も明るく、楽しそうにしていました。ただ、ゲームのチャット機能で話をしていても、過去の記憶がフラッシュバックするのか、気分の浮き沈みが激しく、昨年の夏頃が一番荒れていましたね。ごくまれに体調がよい時は、自宅を出て、公園などの外からネット回線をつないで、僕らと通話することもあったのですが、ほとんどが、自宅からの通話でした。話をしていても、急に塞ぎこんでしまい、いきなり電話を切られることも何度もあった。『死にたい』という言葉は、多いときで2日に1度は聞いていました。浮き沈みが激しいことから、ネットでの人間関係について悩むこともあったみたいです。

どこまで本気だったかわからないですけど、僕のことを『好きだ』とも言ってくれました。彼女はいろいろ自分のことを話してくれましたけど、自身が受けたイジメのことだけは決して僕には語ろうとしませんでした。でも、何かの話をしていると突然、『私は汚れているから』と自分を卑下して壁をつくってしまうことがあって。頻繁にネット上では話をしていましたが、現実では一度も彼女とは会ったことがありませんでした」

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爽彩さんはbさんに何度か絵も送っている(下の写真参照)。爽彩さんはもともと絵を描くのが好きで、イジメを受ける前から頻繁に絵を描いてきた。イジメがあってからはそれまでの明るいタッチはなくなり、暗い色彩とモチーフの絵を描くことが多くなった。しかし、bさんへ送った絵の中には、昔の絵のような、明るく華やかなものもあった。

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「彼女は、絵を描く際は自然に手が動くと話していました。彼女は凄く賢くて、何もなければきっと勉強はできたし、高校は進学校に行けただろうと思います。でも、PTSDのため、学校に行けなかった。出席数が少ないと学校の内申点に響くそうで、そのことについてとても悩んでいました。将来は絵が好きだから、絵に関わる仕事か、そうでなくとも人が喜んでくれることを仕事にしたいとも話していました」(bさん)

失踪前日まで熱心にプログラミングを勉強していたが……

将来への希望も口にしていた爽彩さんは、昨年末ごろからプログラミングに興味を持ち始めた。ネットを使って、コンピューターのプログラミングを教えていた首都圏在住のcさん(30代・男性)にもコンタクトをとり、熱心に勉強していたという。

cさんは今年の2月13日、爽彩さんが失踪する日の前日まで連絡を取り合っていた。cさんが語る。

「(失踪前日の)2月12日はいつもと同じようにプログラミングの授業をオープンチャンネルで行っていました。彼女に変わった様子はなかったですね。ただ、知り合った当時から情緒がかなり不安定で、今思えばフラッシュバックみたいなことが起きたことが何度かありました。そういうときは授業にならないくらい急に落ちこんでしまうんですね。それが彼女のサインだったのかもしれない」

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《テンションあげるの難しいですね》失踪当日のメッセージ

爽彩さんが家を飛び出し、失踪した2月13日、爽彩さんはbさんに午前中から失踪直前に至るまでLINEメッセージを何度も送った。「午前中までは何気ない、いつものテンションだった」とbさんは語る。

以下は失踪当日、bさんに爽彩さんから送られてきたメッセージの抜粋だ。

《おはよ》(9時10分)

《テンションあげるの難しいですね》(9時10分)

《おべんきょ頑張れ》(13時49分)

この日、bさんは大学受験の当日だったため、返信をできずにいた。爽彩さんの糸が切れたのは、その日の夕方のことだった。

《ねえ》(17時26分)

《きめた》(17時26分)

《今日死のうと思う》(17時26分)

《今まで怖くてさ》(17時28分)

《何も出来なかった》(17時28分)

《ごめんね》(17時28分)

《既読つけてくれてありがとう》(17時34分)

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同様のLINEを、bさん以外の他の友人数名にも送り、爽彩さんはスマートフォンの電源を切った。後にbさんが返信をしたものの、そのメッセージに「既読」のマークはつくことはなかった。

この日の旭川の気温はマイナス17度。凍てつく寒さの中、爽彩さんは薄着で夜の公園へと出向いた。彼女の遺体が発見されたのは、それから38日経った3月23日のことである。

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前出のaさんは「彼女はずっと苦しんで耐えてきたんです」と、絞り出すように答えた。

家族は「イジメのない世の中になることを切に願う」

今年4月22日、旭川市の西川将人市長は総合教育会議を開き、2019年当時は「イジメはなかった」としていたY中学校の調査結果を見直し、改めて、当時「イジメがあったのかどうか」再調査すると記者団に発表した。西川市長は教育長に旭川市教育委員会とY中学校側の対応を改めて調査するよう指示。医師や臨床心理士、弁護士らに委託して、第三者で作るいじめ防止等対策委員会を設置し、調査を開始する方針を示した。

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爽彩さんの家族は、旭川市の発表を受けて、次のようにコメントを出した。

「娘はわずか14年という短い人生に幕を閉じました。娘は生前、勉強したり、絵を描いたりすることが大好きな子でした。中学1年生の頃イジメに悩まされながらも必死で生きてきました。家族としては、旭川市の調査が進み、これまで明らかにされなかった情報が開示され、真相が一刻も早く究明されることを願っております。そして何よりもイジメのない世の中になることを切に願います」

市の調査によってイジメの全容が解明され、二度とこのような悲しい事件が起きないよう、行政の誠実な対応を待ちたい。

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旭川14歳少女イジメ凍死事件がついに国会審議の俎上に載せられた。4月26日、萩生田光一文科大臣は音喜多駿参議院議員の質問にこう答えた。

「本事案については、文科省として4月23日に旭川市教育委員会及び北海道教育委員会に対し、事実関係等の確認を行い、遺族に寄り添った対応を行うことなど指導、助言を行った」

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萩生田大臣は「事案が進まなければ政務三役が現場に入る」

今年3月、旭川で当時14歳の廣瀬爽彩(さあや)さんが凍死して見つかった事件の背景に凄惨なイジメがあったことについて、「文春オンライン」では4月15日からこれまで9本の記事を掲載し、詳報を続けてきた。爽彩さんが通っていたY中学校では、これまで「イジメはなかった」としていたが、報道を受けて22日には旭川市がイジメの再調査に乗り出すことを公表。だが、冒頭の発言の後、萩生田大臣はさらに、

「文科省としても必要な指導、助言を行っていくことが重要であると考えており、今後なかなか事案が進まないということであれば、文科省の職員を現地に派遣する。或いは私を含めた政務三役が現場に入って直接お話する。ただ、一義的には少し時間がかかり過ぎじゃないかと」

と述べ、旭川市の対応に釘をさした。旭川市の再調査の発表を踏まえたうえで、その調査に迅速な対応がとられない場合は、本省の職員あるいは政務三役を直接現地に派遣する可能性に言及したわけだが、これは「イジメ対応としては、かなり踏み込んだ発言」(全国紙政治部デスク)と見られている。

4月26日に開かれたY中学校の臨時保護者説明会

しかし、その一方で、渦中の旭川市の教育現場では、いまだに煮え切らない対応が続いている。取材班は4月26日、萩生田大臣の答弁が行われた同日の夜に臨時に開催されたY中学校の保護者説明会の様子を取材。保護者説明会では、学校側は相変わらずの隠ぺい体質を貫き、イジメの実態については何も明らかにしなかった。保護者達は反発し、怒号が飛び交う「大荒れ」の展開となった――。

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※本記事では廣瀬爽彩さんの母親の許可を得た上で、爽彩さんの実名と写真を掲載しています。この件について、母親は「爽彩が14年間、頑張って生きてきた証を1人でも多くの方に知ってほしい。爽彩は簡単に死を選んだわけではありません。名前と写真を出すことで、爽彩がイジメと懸命に闘った現実を多くの人たちに知ってほしい」との強い意向をお持ちでした。編集部も、爽彩さんが受けた卑劣なイジメの実態を可能な限り事実に忠実なかたちで伝えるべきだと考え、実名と写真の掲載を決断しました。

「文春オンラインの報道が出てから学校には問い合わせの電話が殺到。取材活動も過熱し、地元メディアがY中学校の生徒に直接コンタクトしようと声がけをするなど保護者から不安の声が上がっていました。学校側が自主的に説明の場を設けたというより、開かざるを得なかったというのが本当のところです」(Y中学校関係者)

平日夜にもかかわらず保護者100名が詰めかけた

19時から校内の体育館で行われた保護者会では厳戒態勢が敷かれた。体育館の入口では教員らが在校生名簿と保護者の名前を照合し、部外者を完全にシャットアウト。不測の事態に備えて、パトカー数台が警戒に当たるなど、学校周辺には異様な雰囲気が漂っていた。

平日の夜にも拘わらず、体育館には100名ほどの保護者が詰めかけた。取材班は出席した複数の保護者から現場の様子を聞き取った。

パイプ椅子に座った保護者の前に校長と教頭が立ち、体育館の横の壁に沿ってPTA会長、教育委員会のカウンセラー、爽彩さんの当時の担任教師を含めた各学年の教員20名ほどが直立不動の姿勢で並んでいたという。

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当時別の中学校在籍だった校長が、何度も頭を下げて説明

19時、開始の時刻を過ぎると、重々しい空気の中、校長がまずマイクを取った後、深々と頭を下げ、爽彩さんに向けたお悔やみの言葉を口にした。なお、この校長は昨年4月にY中学校に赴任したばかり。爽彩さんがイジメを受けた2019年は市内の別の中学校に在籍していた。校長はこう述べた。

「本校の対応に対するご意見やご指摘が続いており、生徒や保護者の皆様にはご不安な思いやご心配をおかけしております。そのような中、生徒の不安解消や、安心安全を確保するために、その一助になることを願い、本会を開催させていただきました」

校長は何度も頭を下げ、今後の措置として、在校生の心のケアのために個別面談を実施することや教育委員会からスクールカウンセラーを招聘することなどを説明したという。

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対応していた教頭、当時の担任教師は同様の言葉を述べるのみ

続いて、6月に起きたウッペツ川飛び込み事件(#3参照)の後から、爽彩さんの家族への対応窓口となった教頭と、当時の担任教師が、揃って同様の言葉を述べた。

「本校に在籍していた生徒が亡くなったことに関しまして、心から残念であり、言葉になりません。ご冥福をお祈り申し上げます。また、ご遺族の方にはお悔やみを申し上げます。本校生徒の保護者の皆さんにご心配、ご不安な思いをさせておりますことに、お詫び申し上げます。報道に関する部分につきましては、今後予定させていただいている第三者委員会において、誠心誠意対応させていただきます。今、私ができることですが、保護者の皆様にできることに一生懸命努力していきたいと考えています。よろしくお願いいたします」

質疑応答で担任教師は下を向くだけ

その後、20分ほどで学校側の説明は終わり、次に保護者による質疑応答の時間となった。最初にマイクを持ったのは同校に3年生の子供を通わせている母親だった。この子供のクラス担任を今務めているのは、爽彩さんの母親がイジメの相談をしてもまともに取り合わなかった当時の担任教師である。質問した母親はまず「亡くなった子の担任だった先生に何を子供は相談するのか? 担任を代えてください」と訴え、涙で声を震わせながらこう続けた。

「担任の先生が(爽彩さんの母親からイジメの)相談を受けたときに『今日わたしデートですから、明日にしてもらえませんか』って言ったというのが報道で出ていますよね。小耳に挟んだ話ですけど、先生がお友達にLINEで『今日親から相談されたけど彼氏とデートだから断った』って送ったっていう話をちらっと聞いたんですよ。本当に腹が立ちました。そういうことも言ったかどうか全部はっきりして欲しいです」

当時の担任教師は前に立っていた同僚の後ろに隠れるようにして、下を向くだけで、一言も答えない。代わりに校長が「いまの質問にここで即答はできない。申し訳ございません。検討します」と答えた。

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「報道されている言葉が本当であれば、ふざけんなって思います」

爽彩さんが加害生徒から受けた凄惨なイジメの実態を報じた文春オンラインの記事について、その真偽を問う質問も集中した。

「報道されていることは事実なんですか? 過剰なんでしょうか? 子供に『お母さん私どうしたらいいの?』と言われて正直悩みました。先生方は命の大切さとおっしゃっていましたが、言葉の重みというものも子供達に伝えて欲しいです。報道されている先生が発した言葉が本当であれば、ふざけんなって思います。今回報道されなかったら誰も何もしなかったのか」(在校生の母親)

校長はこう答えた。

「言葉の重みというものにつきましては、本当に重く受け止めて参りたいと思っております。今回の報道に関わる部分ですけれども、当時の学校の対応に関わる部分の中で、食い違っている部分もあります。その部分も含めてこの後の第三者による調査の中でしっかりと検証されていくと思っております」

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学校側はイジメについて子供たちに「話はしていない」

爽彩さんが受けたイジメの事実について、これまでY中学校は保護者、在校生らに詳しい説明をしてこなかった。ネットで事件を知った子供から事件について聞かされた保護者たちは混乱していた。質疑応答は白熱していった。

「今回の件について、生徒たちには学校からどのように説明しているのでしょうか。子供に質問された時に私たち親はなんて答えればいいんでしょうか、教えてください!」(在校生の母親)

「今回の件につきましては、先ほども申し上げましたように、今後第三者による調査によりまして学校の対応を含めて色々な面が明らかになったら、今後学校としてどういうふうにして受け止めて、指導にいかしていかなければならない。そのことをしっかりと受け止めて参りたいと思っております」(校長)

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「スマホ、タブレット、パソコンでどんどん情報が入ってきて、子供たちは私が教えなくてもネットを見て知っていくという状態です。学校側は今日この説明会があるまで子供たちに対して何の説明をして、どういう対応をしたんですか?」(3年生の母親)

「この事案に関わるお話は公表できない事になっておりますので、お話はしておりません。学校が行っている対応は警察と連携しながら登下校の時に巡回をしていただくとかですね、安全安心に関わる部分の対応を行ってきているところであります」(校長)

「Y中学校を爆破する」と脅迫電話が…

実はこの日の朝、何者かが市役所に「Y中学校を爆破する」と脅迫電話をかけてきたという。そのため、市は警察と相談し、この日は学校周辺をパトカー数台が一日中警戒に当たるなど、終日緊張感に包まれていた。保護者からはこの点についても不安の声が出た。

「今日、爆破予告が入っていたというのは本当ですか?」(1年生の母親)

「今お話にありました爆破予告と言いますか、そういうような愉快犯は市役所の方にそういう情報が入っていたということは聞いております」(校長)

「私は不安を抱えたまま子供を送り出しましたし、学校に行った子供も不安だったと思います。そういう(爆破予告の)事実があったら、まず(爆弾が校内にないか)確認して大丈夫なのか、少し登校時間をずらすとかできないのか、せっかくメールを登録しているのでご連絡いただきたいです」(1年生の母親)

「わかりました。警察、教育委員会と連携してですね、施設も一度全部点検していただいて、安心だということでこのまま対応させていただいております」(校長)

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学校側の煮え切らない態度に、飛び交う怒号

いつしか会場には怒号が飛び交うようになっていたという。学校側の煮え切らない態度に怒り、途中退席する保護者も大勢出るなど、保護者会は大荒れとなった。保護者の非難の矛先はイジメ問題の当事者でありながら、今回の保護者会には姿を現さなかった前校長や当時対応にあたった現教頭に向けられた。

「2年前にいた校長先生は、今日この場にいらしてないんですか? なぜですか?」(1年生の母親)

「来ておりません。お気持ちはよくわかるんですけども、いま本校の職員でないので、そのような状況にはならなかったです。大変申し訳ございません」(校長)

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「最初に、報道に対しての説明をするという話で開始しましたよね。SNSでの誹謗中傷、(子供は)当然みんなSNSや報道も見ている。文春オンラインの記事の内容を見て僕は涙が出た。この学校に子供を通わす親として、本当に大丈夫なのかと。それに事件に関して何の説明もない。『第三者委員会』を繰り返して、あのおぞましい行為をイジメじゃなかったと判断している学校。この中途半端な説明会でどれだけみんなが納得すると思いますか。そしてやるからにはきちんと記者会見して、イジメはなかったと言えるくらい胸張っていてくださいよ。教頭先生、生徒のスマホ画面をカメラで撮ったそうじゃないですか。これも第三者委員会じゃなくては分からないことなんでしょうか」(在校生の父親)

教頭は「私自身は法に反することはしていない」と主張

「……」(教頭)

「今あったお話にこの場でお答えできないことが本当に心苦しいですけども、私どももお話できない状況になっておりますので本当に申し訳ございません」(校長)

「教頭先生にお話はしていただけないのでしょうか?」(在校生の母親)

すると、教頭はこう答えた。

「私の方からお話できることは、第三者委員会の調査の中では、私の知っていることは全て誠実にお伝えさせていただきたいと思っております。1つだけ今回の報道等に関することは、個別の案件に関わることですのでお答えすることができませんが、私自身は法に反することはしていないということはお伝えさせていただきたいと思います。このあと捜査を受けることになるか分かりませんけども、しっかりと対応していきたいと思っております。現段階では私のお話は以上です」(教頭)

教頭、担任教師は一度も頭を下げることはなかった

1時間30分に渡って行われた保護者会は20時30分に終了。20名を超える保護者から学校側に厳しい意見が突き付けられたが、学校は「第三者委員会の調査」を理由にほとんどの回答を拒否。保護者からは「何のための保護者会だったのか」「まったく意味がなかった」などの声が洩れたという。

事件当時を知らない校長は何度も陳謝し、保護者に頭を下げたが、爽彩さんや母親が必死に助けを求めた教頭、担任教師は一度も頭を下げることはなかったという。

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爽彩さんの遺族は、文春オンラインの取材に対して以下のコメントを寄せた。

「事前に連絡はなく、説明会のことは知りませんでした。どんな説明会だったのかはわかりませんが、ほかの関係のない子供たちが巻き込まれてしまっているのは、とても辛いです。学校に対しては、イジメと向き合って、第三者委員会の調査に誠実に向き合っていただきたいです」

保護者会の翌日の4月27日、旭川市教育委員会は定例会議で「女子生徒がイジメにより重大な被害を受けた疑いがある」と、いじめ防止対策推進法上の「重大事態」に認定。5月にも第三者委員会による本格的な調査を始めると発表した。Y中学校の誠実な対応が求められるだろう。

4月30日(金)21時~の「文春オンラインTV」では担当記者が本件について詳しく解説、Y中学校でおこなわれた保護者会の音声の一部も公開する。

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「旭川市がこんなに早く、爽彩がイジメを受けていたかどうかを再調査すると決めたのは、(文春オンラインの)記事が出てからのネットの反響がとても大きく、多くの抗議の声が上がったからだと思います。そうした声が上がったのは本当にありがたいのですが、一方で、行き過ぎた言動がいまネットを中心にあふれており、異常だと思うことがあります。正直、少し冷静になっていただけたらと思う部分もあります」(爽彩さんの遺族の支援者)

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ユーチューバーが旭川に現地入り。ついに逮捕者が出る騒ぎに

「文春オンライン」では4月15日からこれまで10本の記事を掲載し、今年3月、北海道旭川市の公園で、当時14歳の廣瀬爽彩(さあや)さんが凍死して見つかった事件の背景に凄惨なイジメがあったことについて詳報を続けてきた。爽彩さんが通っていたY中学校では、これまで「イジメはなかった」としていたが、報道を受けて22日には、旭川市がイジメの再調査に乗り出すことを公表。4月27日には、旭川市教育委員会が定例会議で「女子生徒がイジメにより重大な被害を受けた疑いがある」と指摘。いじめ防止対策推進法上の「重大事態」にあたると認定し、5月にも第三者委員会による本格的な調査を始めると発表した。

爽彩さんが受けた「イジメ」の全容解明に向けて、少しずつ動き出した一方で、日に日に“過激さ”を増しているのがネット空間だ。ある匿名掲示板では、イジメを行った加害者グループメンバーの実名や住所の割り出しが盛んに行われ、事件とは全く関係のない人物の実名や住所までも晒されている。さらに複数のユーチューバーが、旭川に現地入りし、市民への迷惑行為が横行した結果、ついに逮捕者が出る騒ぎにまでなった。こうした騒動が頻発していることに対して、爽彩さんが生前通ったY中学校の生徒や保護者、そして爽彩さんの遺族らから戸惑いの声が出ているのも事実だ。

※本記事では廣瀬爽彩さんの母親の許可を得た上で、爽彩さんの実名と写真を掲載しています。この件について、母親は「爽彩が14年間、頑張って生きてきた証を1人でも多くの方に知ってほしい。爽彩は簡単に死を選んだわけではありません。名前と写真を出すことで、爽彩がイジメと懸命に闘った現実を多くの人たちに知ってほしい」との強い意向をお持ちでした。編集部も、爽彩さんが受けた卑劣なイジメの実態を可能な限り事実に忠実なかたちで伝えるべきだと考え、実名と写真の掲載を決断しました。

「今以上の炎上騒ぎになる」と迫ったユーチューバー

4月26日、旭川中央警察署は神奈川県相模原市に住む自称ユーチューバー「折原」こと、東優樹容疑者(25)を強要未遂の疑いで逮捕した。東容疑者は爽彩さんの知人女性に対して、SNSを通じ、無理矢理話を聞こうとした疑いがもたれている。

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「北海道警によると、東容疑者は『話を伺わせてもらえませんか』『今以上の炎上騒ぎになると思います』と爽彩さんの知人女性にSNSで発信した。『話をしなければ、今以上の炎上騒ぎになる』と迫った点が強要行為にあたると判断されました。さらに東容疑者は、爽彩さんの知人に対する付きまとい行為も激しく、裏どりもしっかりとできていないうちに、相手の顔写真や住所までいきなりSNSで公開したり、実際に相手の職場を訪れ、“直撃”を行っていました。こうした行為を問題視した警察は東容疑者を逮捕前からマークしていた」(地元メディア記者)

青髪にゼブラ柄の毛皮コート姿の東容疑者が爽彩さんの自宅へ

東容疑者の迷惑行為は、旭川に入ってから加速し、遺族や事件に関係ない人をも巻き込んでいった。23日深夜、自身のユーチューブにあげた動画では、

「俺は慎重に調べている」

「デマの情報に気をつけている」

「被害者遺族のもとへ行くつもりはない」

「全てを晒す」

など、自信満々に活動を報告していた。

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この際に「被害者遺族のもとへ行くつもりはない」と語っていたが、4月25日、爽彩さんの母親の自宅にも訪れた。インターフォンのカメラには、青髪にゼブラ柄の毛皮コートを着た東容疑者の姿が記録されていた。

暴力団と関わりがあるようにネットで騒がれた

旭川市内で、自動車店「GARAGE VOX」を営む宮川匠さん(48)一家はネットであらぬ疑いをかけられ、東容疑者から電話で“直撃”を受けた。宮川さんの息子は爽彩さんをイジメた加害生徒であるC男が通ったZ中学校の卒業生だ。今回のイジメ事件の報道があってから、どういうわけか宮川さんの息子は加害者グループの一員だったと「断定」され、家族全員の実名や自宅の住所まで晒され、犯罪者集団のような扱いを受けた。

しかし、宮川さんの息子は加害生徒のグループとは学年も違い、爽彩さんと関わりがないことは、爽彩さんの遺族も断言している。宮川さんが語る。

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「うちは21年間、地道に真面目に商売をしてきました。それなのに暴力団と関わりがあるようにネットで騒がれ、東容疑者にそうした間違った情報を拡散されてしまったため、仕事にも影響が出ています。東容疑者は先週末、突然店に電話をかけてきました。そして、私の息子をイジメの加害者扱いした上で、『取材させてくれ』と迫ってきました。『うちは関係ないので(家に)来ないでくれ』『そんなに話をしたいなら第三者がいる警察の前で話をしよう』と伝えると、そこで電話は切れました。

東容疑者は結局、店にはやってきませんでしたが、自身のツイッターで一方的に店の写真を公開すると、息子の顔写真が晒されました。息子は『事件の主犯』扱いされ、『さすがにこれは酷い』と電話で伝えたら、ツイッター上から息子の顔写真は削除されました。

ですが、既に東容疑者の投稿した息子の写真や名前がネット掲示板や別のユーチューバーによって次々と拡散されてしまいました。今でも毎日のように嫌がらせの電話が店にかかってきます。見慣れない、地方ナンバーの車が店の前をウロウロするようにもなりました」

取材中に宮川さんをあざ笑うようないたずら電話が…

「主犯扱い」されてしまった宮川さんの息子も肩を落とす。

「事件とは全く関係ない僕の友人までネットで晒されていて、犯人扱いをされています。僕は事件があった公園がどこであるかすら知らないし、爽彩さんの顔も知りません。そもそも(爽彩さんがイジメを受けた際に在籍していた)Y中学の人間との関わりもなかった」

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取材班が宮川さんに話を聞いている間にも、宮川さんの店にイタズラ電話がかかってきた。

「また……来ました」

宮川さんが重い腰を上げて、受話器をとると、電話の向こうからはあざ笑うような声が聞こえてきた。

「多くの書き込みは既に削除され、東容疑者本人からの謝罪は一応ありましたが、あとの祭りです。謝って消せばいいという問題じゃない」

宮川さんは深いため息をついた。

dさんは爽彩さんとトラブルになったことはあるが…

ネットに実名を晒された無関係な生徒は、宮川さんの息子だけではない。事件当時、Y中学校に通い、爽彩さんがY中学校を転校した後も、彼女を支えた数少ない友人であるdさんも、ネット上では、「犯人グループ」の一人として名指しされている。dさんの実名が広く晒されてしまったのは、ある人気ユーチューバーの生配信中に飛び込みで電話出演した「Y中学校の同級生」を名乗る人物の発言がきっかけだった。この人物が、dさんが「犯人グループの一人」であると“匂わせた”ことから、ネット上で一気に実名が拡散してしまったのだ。

dさんは疲れた表情を見せながら、話をしてくれた。

「僕は、2019年4月、爽彩さんがY中学校に入学した当初に、彼女と親しくさせてもらっていました。その際に、爽彩さんに対してトラブルを起こしてしまったことがあります。そのことについては、爽彩さんから後日許してもらい、爽彩さんのお母さんにも説明して、理解してもらっています。

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僕は爽彩さんのイジメ事件には一切関わっていません。むしろ僕もイジメグループのある人物からパシリまがいなことをさせられていた時期がありました。イジメのことがあって、爽彩さんがX中学校に転校してからも、時々、手紙のやり取りをして、互いに励まし合っていたんです。

実名を出され、犯人扱いされるのはさすがに辛い

ただ、爽彩さんと僕との関係性を知らないY中学校の同級生からは、トラブルをおこした僕は犯人グループと一緒に見えたのかもしれません。爽彩さんがウッペツ川に飛び込んだときも、学校や警察に呼ばれて事情を聞かれました。でも、僕はあの現場にはいなかったし、一切関わりはありませんでした。

爽彩さんが受けた酷い出来事について、僕はむやみに広めたくなかったので、爽彩さんのことはこれまであまり語らずにいました。ですが、イジメ事件について報道があってから、真相を知らない同級生が、ネットの人たちに乗せられて憶測で言いたいことを話すのには耐えられない。実名を出され、犯人扱いされるのはさすがに辛いです」

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亡くなる2カ月前にdさんの元へ送られてきた爽彩さんからの手紙には、dさんへの感謝の言葉と共に絵が描かれている。dさんがイジメ事件には関わっていないことは先ほどの宮川さん同様、爽彩さんの遺族が断言した。

現在dさんは、ノイローゼ気味となり、連日不眠に悩まされている。宮川さんやdさんは既に警察や弁護士に相談しており、被害届を出すことを考えている。

元埼玉県警刑事部捜査第一課所属で、デジタル捜査班班長をつとめた佐々木成三氏が解説する。

「事件とは無関係であるにもかかわらず、実名や顔写真などの個人情報を流した場合は名誉毀損罪及び侮辱罪に問われる可能性があります。また(宮川さんのように)、店舗に繰り返し何度もイタズラ電話がかかってくるケースでは業務妨害罪にも該当する。間違った情報であっても、どんどん拡散されてしまうのはツイッターなどの特性ですが、そうした『名誉毀損』の書き込みをリツイートしただけでも、民事裁判を起こされた場合は、損害賠償の対象になり得ます。また、嫌がらせをする目的で待ち伏せをしたり、つきまとう行為は迷惑防止条例違反に該当します。ただ、現在ネットで横行している“晒し行為”の一番怖い点は、それが名誉毀損にあたることを拡散している当人が分かっていないこと。つまり当人に違法性の認識が低いことですね」

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ネットリンチは形を変えたイジメ。遺族は望んでいない

今回、取材に応じてくれた宮川さんやdさんの他にもあらぬ疑いをかけられ、犯人グループの一員として実名や写真をネット上に晒された無関係の生徒は複数存在する。爽彩さんの親族が胸の内を吐露した。

「事件を知ってくださった方々が爽彩のことを考えてくださるのは本当にありがたいです。ですが、今はこれからはじまる第三者委員会の調査の結果を信じて待ちたいと思います。ネットリンチもまた、形を変えたイジメであり、我々は望んでいません。事件と関係のない方までもがネット上に晒されてしまう現状に胸が苦しくなります」

亡くなる直前、ネットが家庭以外の唯一の居場所だった爽彩さん。ネットを通して新たな「被害」が生まれてしまうことは彼女も決して望まないだろう。

4月30日(金)21時~の「<a href="https://youtu.be/vjBtYNWDzms" target="_blank" rel="noopener noreferrer">文春オンラインTV」</a>では担当記者が本件について詳しく解説する。

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遺族側は「大学院教授」と「臨床心理士」に反対

文春オンラインでは4月15日から12本の記事を公開し、爽彩さんの死亡の背景にY中学校の上級生らからの凄惨なイジメがあったことを報じた。その記事が反響を呼び、旭川市にイジメの再調査を求める声が殺到した。

4月22日、西川将人市長が旭川市の教育長に旭川市教育委員会とY中学校側の対応を改めて調査するよう指示。医師や臨床心理士、弁護士らに委託して、第三者で作る「いじめ防止等対策委員会」を設置し、再調査を開始する方針を示していた。

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爽彩さんの遺族は、爽彩さんへのイジメが行われた2019年4月からY中学校に「娘はイジメられているのではないか」と訴え続けてきた。Y中学校側はその都度不誠実な対応を取り続け、イジメの事実を認めてこなかったが、ようやく行政が重い腰を上げたのだ。

市の教育委員会は、今年4月末に爽彩さんの事件をイジメがあった疑いがある「重大事態」と認定。第三者委員会による全容の解明に期待が高まりつつあった。

だが、遺族側は市教委から提示された第三者委員会のメンバーの人選について不信感を募らせているという。旭川市役所関係者が打ち明ける。

「市の教育委員会は5月中旬に第三者委員会のメンバーを決定して、年内には調査結果を公表する予定でしたが、大幅に遅れる可能性が高くなりました。第三者委員会のメンバーは大学院教授を中心に臨床心理士、小児科医、社会福祉士の4名で組織する予定でしたが、事前に遺族側にその人選を伝えたところ、遺族側は大学院教授と臨床心理士が第三者委員会のメンバーに入ることに強く反対したのです」

「大学院教授g氏」が候補者リストに

遺族側がこの2人のメンバー入りを問題視したのは、彼らが完全な「第三者」とは言えないからだ。

まず、臨床心理士のf氏については、2019年6月に爽彩さんがウッペツ川へ飛び込んだ事件直後に搬送された旭川市内にあるA病院の臨床心理士でもある。

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「遺族側は、f氏は、爽彩さんを診断した医師とは別ではあるものの、同じA病院勤務であることから、第三者の立場で調査に当たることは難しいのではないかと疑問を呈したようです」(前出・旭川市役所関係者)

さらに遺族側が「著しく公平さを欠く人選」として異議を唱えたしたのが、大学院教授g氏が候補者リストに入っていたことだった。g氏は第三者委員会のとりまとめ役を担う予定とされていた。

g氏は「学校人事を牛耳る最大派閥出身」

「g氏は過去に旭川市内の小学校の校長を務めたことがある人物です。校長退任後は、北海道教育庁で長年、イジメ問題や自殺、生徒指導などに携わってきました。しかし、2019年当時、爽彩さんが凄惨なイジメを受けていたにもかかわらず『イジメとして認識はしていない』と判断し、保護者会に弁護士の同席を求めた被害者側の要望を拒絶したY中学校校長とg氏は北海道教育大学旭川校の同窓生でもあります。

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旭川市内の学校の元校長という同じ立場を経験しており、さらに北海道教育大学旭川校の同窓生という間柄で、果たして中立な立場で調査が行えるのか。こうした疑念を遺族側は強く持ったのです」(同前)

旭川市内の中学校に勤務する現役の教員はこう指摘する。

「旭川市の教員の半数以上はY中学の当時の校長とg氏が卒業した北海道教育大学旭川校の出身といえます。同大学のOB会は市内の小中学校の人事を牛耳っている最大派閥です。派閥内の繋がりや結束は強く、同じ派閥内の人物が第三者委員会に入った場合、何らかの忖度が働かない調査などできるはずがありません。私がこれまで勤務したことのある学校の校長の8割が北海道教育大学旭川校出身でした。管理職を目指す教員や出世願望のある教員は先輩OBの言うなりで、逆らうことなど一切できる環境ではありません」

遺族は「1人でも遺族側が希望する人を」

爽彩さんの遺族に「第三者委員会」の人選案について聞くと、憤りを隠さずにこう語った。

「f氏とg氏が第三者委員会のメンバーに入ることを拒否したことは事実です。同じ旭川市内の教員経験者で、大学も同じ同窓生という間柄では、偏ったり、かばう可能性もあり、適切な調査が行えるかどうか疑問を感じました。平等で公平で利害関係のない人を選出しなくてはならない第三者委員会なのに、この人選には違和感しかありませんでした。

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旭川市が要請するメンバーだけでなく、1人でもいいので遺族側が希望する人を第三者委員会に入れていただきたいです。第三者委員会には、どちらに偏ることなく、適切な調査を行っていただけることを信じて待ちたいと思っています」

市教委も「直接人間関係を有する者はよくない」

旭川市教育委員会に第三者委員会の人選案について問い合わせると以下の回答があった。

「今回の第三者委員会のメンバーは、この事案のために新たに人選したものではなく、以前から設置していた委員会のメンバーを提示したものでした。国のガイドラインでも、本件に関わる調査においては事案の関係者等、直接人間関係を有する者についてはよくないというのは理解しているので、ご指摘のあった2名については、この調査には関わらないことにしております。現在、第三者委員会は4人ですが、今回の事案に関しては早急に迅速に進めなければならないということもあり、人数も増やすことを考えていて人選中です」

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「本日、旭川市いじめ防止等対策委員会における調査の実施についてご報告をさせていただきました。冒頭私からこの調査に関係する、亡くなられた生徒のご冥福を心からお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆さまに対しまして哀悼の意を表し、お悔やみを申し上げる次第であります。改めまして市民の皆さま、大変多くの方々に多大なご心配をおかけしておりますことに深くお詫びを申し上げます」

5月14日に開かれた北海道・旭川市議会の経済文教常任委員会冒頭。市教育委員会の黒蕨真一教育長が報道陣の前で深々と頭を下げると、無数のフラッシュが浴びせられた。

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第三者機関が調査結果をまとめるのは11月

文春オンラインでは、4月15日から13本の記事を掲載し、今年3月、旭川市内の公園で当時14歳だった廣瀬爽彩さんが、凍死した状態で発見された事件の背景には、Y中学校に通う上級生らからの凄惨なイジメがあったことについて詳報を続けてきた。爽彩さんが通っていたY中学校は、これまで「イジメはなかった」と繰り返してきたが、報道を受けて、改めて再調査に乗り出すことを公表した。

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5月14日に開かれた委員会で、市教委は、本事案をイジメの「重大事態」として対処し、第三者機関である「旭川市いじめ防止等対策委員会」で調査を実施することを改めて表明した。5月中にも調査に着手し、事件に関係した生徒等へのアンケートや、聞き取り調査を行い、11月末をもって調査結果をまとめるという。

イジメ凍死事件への質問が相次ぎ、会は3時間以上の異例の長さに

経済文教常任委員会は約30分程度で閉会となるのが通例だが、この日は、爽彩さんのイジメ凍死事件に関する質問が市議会議員から相次ぎ、会は3時間以上にわたる異例の長さに及んだ。煮え切らない市教委の答弁に対して、市議らからの質問は厳しさを増していった。

13時から市役所の会議室で行われた委員会には、多くの地元メディアや傍聴する市民が集まり、緊迫した空気に包まれていた。

会議は冒頭、市教委側からの報告が5分ほど行われ、続いて市議らによる質疑応答の時間となった。最初に質疑に立った菅原範明市議からは、「イジメの有無における学校の判断、市教委の対応」についての質問が投げかけられた。

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萩生田文科大臣がしっかりと調査するよう指示を促した

「この事案については文春オンラインが隠蔽の疑いがあるとして記事に取り上げました。(4月26日には)参議院においてもこの事案の問題の重要性が指摘され、萩生田文科大臣におきましても真相究明にあたって道教委や旭川市教委にしっかりと調査するよう指示を促したということであります。世間では学校また、市教委の対応のまずさ、不手際が大きな社会問題となっていたのではないかとの推測がある。学校、市教委の対応はどうだったのか?」(菅原市議)

それに対し、市教委の担当者はこう答えた。

「当該学校では事案発生後すぐに当該生徒及び関係生徒からの聞き取りを行うと共に、警察の対応状況も確認しております。当該学校においては、事案発生の経緯や生徒同士の関係性等に関する情報から、イジメと認知するまでには至らなかったものの関係児童生徒への聞き取りの内容や学校の対応状況などについて、その都度教育委員会から報告を受けております」(市教委の担当者)

市教委は改めて、イジメと断定しなかった経緯を述べた。菅原市議は続けて、こう質問を続けた。

報道と市教委の認識に大きな相違点があるのはなぜか?

「イジメの重大事態の疑いがあるとされ、西川(将人)市長は記者会見において今回、文春オンラインの報道と市教委が認識している内容と大きな相違点があると確認をされておりました。その認識の根拠となる書類というのは存在しているのでしょうか。また、今後相違点の事実などをどのようにして確認していくのか」

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「本事案に関わり当該生徒や関係児童生徒が在籍をしていた学校が作成をいたしました聞き取りの内容や、指導の状況、警察と連携した内容等についての記録や、当該生徒の転校先の学校が作成をいたしました当該生徒の状況や学校の対応等についての記録がありまして、これらを本事案に対するこれまでの教育委員会の認識の根拠としているものでございます。教育委員会では各学校からの報告内容をまとめた資料を作成しておりまして、これらの資料につきましては全て旭川市いじめ防止等対策委員会に提出をしてまいりますので、その調査の中で事実関係等明らかにしていく所存であります」(市教委の学校教育部長)

わいせつ画像拡散、自慰行為強要があったが、イジメと認定せず

爽彩さんはわいせつ画像を拡散され、イジメグループから自慰行為を強要された。続いて質問に立った高花えい子市議はそうした事実があったにもかかわらず、これを今までイジメと認定してこなかった学校や市教委の「判断基準」について疑問を呈した。高花市議はそのうえでさらに市教委に「イジメの概念についてどう考えているか」と質問した。

「イジメにつきましては、国は当該児童生徒と一定の人的関係にあり、他の児童生徒と行う心理的または物理的な影響を与える行為により当該児童生徒が心身の苦痛を感じているものと定義しており、教育委員会におきましても平成31年2月に作成した旭川市いじめ防止等基本方針において国と同様の定義をしております」(市教委の担当者)

「児童生徒が心身の苦痛を感じていればイジメに該当されるという認識であると受け止めてよろしいですか?」(高花市議)

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「イジメの理解に当たっては何よりイジメを受けた側の心情に寄り添って判断することが重要であると認識しており、一定の人的関係にある児童等が行う行為により心身の苦痛を感じているものにつきましてはイジメに該当するものと考えております」(市教委の担当者)

「では、この度の当該生徒はイジメの被害に遭ったと認識することになりますが、そう理解してよろしいですか?」(高花市議)

「本事案につきましては把握した事実関係や、その中で得た事実発生の経緯、生徒同士の関係性等に関する情報から判断しました。結果、イジメと認知するまでには時間がかかったと報告を受けており、市教委といたしましても関係機関と情報交換するなどして事実関係を精査したが、イジメと判断するまでには至らなかったところであります」(市教委の担当者)

警察は「近くの中学校で厄介な性被害、とんでもない事件があった」

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能登谷繁市議は、「当時小学校に通っていた保護者の方にもお話を伺いました。『2019年8月に警察の方が訪ねてきて、近くの中学校で厄介な性被害、とんでもない事件があった』と聞いていたそうです。容易にいじめと判断できると考えられますが、それでも市教委はイジメと判断できなかったのでしょうか」と、切り込んだ。市教委の担当者は、

「教育委員会に関しましては、本事案は警察と連携し、対応することが必要だったことから学校の事案発生報告を受け、ただちに警察との連携を開始するとともに、各学校における対応状況を把握しながら助言等を行い当該生徒と保護者への支援を行っていたところであります。市的にはイジメの認知には至っていないというところであります」

と回答した。さらに質疑は続いた。

ウッペツ川飛び込み事件を「イジメではない」と判断した人物は?

「(2019年6月に爽彩さんが地元のウッペツ川に飛び込む事件を起こしたことについて)これは『イジメではない』ということは誰がどのように判断したんでしょうか?」(能登谷市議)

「当該学校におきましては、先ほど申し上げました児童生徒等からの聞き取りですとか、警察の対応状況について管理職や関係する教職員によって情報整理いたしまして、最終的には(当時のY中学の)校長が判断したところでございます」(市教委の担当者)

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「第三者による調査でやるから何も言えない」で通るのか?

「教育委員会が把握していた事実と既に報道された内容に相違があったということですが、どの部分がどの報道と違うのですか? 文春オンラインのことですか? それは調査委員会を立ち上げる動機となる重大なことなので、しっかりとご説明いただきたい」(能登谷市議)

「今後の第三者による調査への影響を考慮し、具体的には申し上げることはできませんが、保護者と学校との関係性や当該生徒と関係生徒との関係性といったことに相違があったと認識してございます」(市教委の教育指導課長)

「保護者と学校のことも違う。生徒間のことも違うということですよね。『第三者調査でやるから何でも言えない』っていうのは、それは通るんだろうか。当時の判断は決裁済みでしょ? 教育委員会として公的な判断をされたんですよね。説明責任があるんじゃないですか?」(能登谷市議)

「当時の判断と現在の判断の違いということでありますが、現時点においては教育委員会としてもイジメの認知には至っていないところですが、我々の当時の認識等含めまして、そこにもしかしたら間違いがあったかもしれないということも前提といたしまして、そのことにつきましても第三者による調査の中で検証していただき、そのことを受け止めてまいりたいというふうに考えております」(市教委の教育指導課長)

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Y中学校は地元紙報道に「謂れのない誹謗中傷」とプリントを配布

能登谷市議によれば、2019年6月に、爽彩さんがウッペツ川に飛び込んだ事件を起こしたことは地元紙の「メディアあさひかわ」(2019年10月号)でも報じられた。しかし当時、Y中学は保護者宛にプリントを配布し、メディアあさひかわの記事は「ありもしないこと」だと、否定したのだという。能登谷市議はこう質問した。

「当時ですね、中学校からこの雑誌の記事は事実ではない旨のプリントが配布されました。これも保護者から聞かせていただきました。そのプリントはですね、学校長が発出していますが、『地元情報誌に本校に関わる記事が掲載されました。ありもしないことを書かれたうえ、謂れのない誹謗中傷をされ驚きと悔しさを禁じ得ません』と、公文書とは思えない、学校長の心情まで書かれています。市教委はこの内容を把握していましたか?」(能登谷市議)

教育委員会は目を閉じて耳をふさいで知らないふりをしたとしか思えない

「当時、学校長とPTA会長との連名により保護者の方に宛てられた文書の内容については把握をしておりませんが、その文書の趣旨等については聞いているところでございます。その文書の趣旨といたしましては、当時月刊誌で学校名も含めまして掲載されたことにより当該生徒と当時在籍していた子供たちの登下校の安全ですとか子供たちの不安や悩み、そういったことの解消のため学校としての取り組みについて保護者に説明するために書いた文書であるという趣旨については伺っているところでございます」(市教委の教育指導課長)

「全く解せませんね。教育委員会は目を閉じて耳をふさいで知らないふりしてこれをやり過ごそうとしていたとしか思えませんよ、はっきり言って。2019年4月から母親が『イジメられている、調べてください』と訴えている。せめてこの6月の川に飛び込んだ時点でイジメとして対処していれば、命まで失うことはなかったんではないですか。はっきり言って初動ミス。学校任せにせず最初にしっかりとした調査を教育委員会として責任を持ってやっていれば子供の大事な命まで失うことはなかったのではないか」(能登谷市議)

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黒蕨真一教育長は次のように語った。

「当該生徒が行方不明になられた際には私も早期に無事に発見されることを切に願っておりました。亡くなられたことは極めて残念でならないことでございます。これまでの一連の学校、それから教育委員会の対応につきましても調査機関の中で検証していただき、尊い命を救える手立てはなかったのかということを追及していくことが重要ではないかというふうに思っております」

学校や教育委員会の隠蔽体質に対して、3時間にわたって厳しい追及が続いたが、市教委は「第三者委員会の調査」を理由に詳細を語るのを避け続けた。

遺族は「言葉がみつかりません」

6月以降には次の委員会が開かれ、再び旭川14歳少女凍死事件について、議題に上がる予定だ。爽彩さんの遺族は文春オンラインの取材にこう答えた。

「転校した後に学校がそのような書面を配布していたことは知りませんでした。(学校側は)どうして嘘をつき続けるのだろうかと思います。保護者会でも同じでしたが、言えることと言えないことはあると思いますが、イジメのことに関わることはすべて『第三者委員会の調査のため』という言葉で答えないというのは少し違うのではないかと感じています」

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「なぜY中学校はまともにあの事件について、説明をしようとしないのか――保護者としての当然の不満ですらまともに受け止めないのが、今のY中学校の姿です。どうして爽彩さんの事件について、これまで公にせず、黙ってきたのか。あの時、本当は何が起きて、Y中学校はどう対応したのか。それが知りたいのに。先日行われた保護者会でも、校長が『第三者委員会の調査』を理由に、ほぼ無回答を貫きました。これで『生徒の安心・安全』のためと言われても……。そもそも子どもたちの安心・安全を脅かしているのは、学校側の隠蔽体質が原因ではないかと言いたいです」(Y中学校に子どもを通わす保護者)

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文春オンラインでは、これまで14本の記事を配信し、今年3月に市内の公園で亡くなっているのが見つかった廣瀬爽彩さんについて、その死の背景に凄惨なイジメがあったことを伝えてきた。

※本記事では廣瀬爽彩さんの母親の許可を得た上で、爽彩さんの実名と写真を掲載しています。この件について、母親は「爽彩が14年間、頑張って生きてきた証を1人でも多くの方に知ってほしい。爽彩は簡単に死を選んだわけではありません。名前と写真を出すことで、爽彩がイジメと懸命に闘った現実を多くの人たちに知ってほしい」との強い意向をお持ちでした。編集部も、爽彩さんが受けた卑劣なイジメの実態を可能な限り事実に忠実なかたちで伝えるべきだと考え、実名と写真の掲載を決断しました。

こうした事件が起きた学校だとわかっていれば、子どもを入学させなかった

そして4月26日にY中学校で行われた臨時保護者会の紛糾の様子も報じた(<a href="https://bunshun.jp/articles/-/45235″ target="_blank" rel="noopener noreferrer">「ふざけんな」「おぞましい」旭川少女イジメ凍死 ついに「臨時保護者会」開催も怒号飛び交う90分に《教育委員会は「重大事態」認定》</a>)。同記事では、一連の報道を受けて臨時保護者会が開かれたものの、保護者の真摯な質問に対して、ほぼゼロ回答を貫いた学校側の不誠実さについて触れた。その記事に対して、Y中学校の保護者から学校の対応を批判する様々な声が取材班に寄せられた。

「Y中学校に通っていた時にイジメの被害を受けていた爽彩さんの事件について、文春オンラインで報じられて以降、この様な学校に我が子を通わせることに大変な不安を覚えていますし、親として責任も感じています。爽彩さんの事件に関しては今回の報道があるまで何も知りませんでした。こうした事件が起きた学校だとわかっていれば、他の中学校を選択し、子どもを入学させなかった。今では、後悔と不安の毎日を送っています」(冒頭とは別の保護者)

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爽彩さんのイジメの問題については、旭川市の教育委員会が第三者委員会を設置して、再調査を実施する方針を定めている。今回、改めてY中学校側の対応に問題がなかったか検証するため、そして何より爽彩さんの事件によって今何が起きているのかを明らかにするために、特定の名称などを除いて保護者会の様子を全文公開することとした。

(全文公開の1回目/全3回)

異様な雰囲気が漂う中「臨時の保護者説明会」が始まった

4月26日19時からY中学校の「臨時の保護者説明会」は行われた。校内の体育館で行われたが、入り口で教員らが在学生徒と保護者の名前を照合し、異様な雰囲気が漂っていた。

100名ほどの保護者が詰めかけた体育館内には、パイプ椅子が並べられ、校長と教頭が前方に立ち、横の壁に沿ってPTA会長、教育委員会のカウンセラー、爽彩さんの当時の担任教師を含めた各学年の教員20名ほどが直立不動で立っていた。

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昨年4月から赴任し、イジメ事件が起きた時には別の学校に在籍していた現・校長が深々と頭を下げ、臨時保護者会は始まった――。

司会 本日は大変お忙しい中、また急なご案内にも関わらず夜分にお集まりいただきましてありがとうございます。それでは初めに校長からご説明をさせていただきます。ご質問等につきましては説明等の後に時間を空けていますので宜しくお願い致します。

SNS上には学校や教員等に対する誹謗中傷が書き込まれている

校長 初めに、報道等でご承知のことと思いますが、3月下旬にお亡くなりになった市内の女子生徒が令和元年度は本校に在籍しておりました。ご冥福を心からお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆様に謹んでお悔やみを申し上げます。

令和元年度の本校の対応に対するご意見やご指摘が続いており、生徒や保護者の皆様にはご不安な想いやご心配をおかけしております。そのような中、生徒の不安解消や安全安心を確保するために、その一助になることを願い、本会を開催させていただきました。ご参加くださいまして本当にありがとうございます。

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初めに、令和元年度、2年前の生徒指導事案につきましては、当時、前任の校長のもとで警察と情報を共有したり、教育委員会と連携しながら対応いたしました。事案の内容につきましては、報道で公表されておりますように第三者(委員会)による調査を行う方向で教育委員会が検討していると聞いておりますので、そこで明らかになっていくと考えております。調査が始まった場合には、学校として協力し、当時の学校の判断は対応が十分と言えるのか、どのような課題があったのかなど専門家の皆様に検証いただき、その結果を真摯に受け止め、今後の指導に活かして参りたいと認識しております。

また、学校には、今回の件に関連する数多くの問い合わせやご意見が寄せられており、SNS上には学校や教員等に対する誹謗中傷が書き込まれたり、色んなことが発生しており警察と連携しているところでございます。保護者の皆様には大変ご心配をおかけしております。学校は、生徒の不安解消と安心して学校生活を送ることができるよう、教育委員会や警察等と連携して対応しているところでございます。本日は、学校の取り組み、また、保護者の皆様にご理解とご協力をいただきたいことを含めてご説明をさせていただきます。

3年生の中には亡くなった女子生徒を知っている生徒もいます

初めに、生徒の心のケアに関する取り組みについてご説明をさせていただきます。生徒の間でも不安が広がっていることや、亡くなった女子生徒と同学年の3年生の中には女子生徒を知っている生徒もいますので、丁寧に行って参りたいと考えております。1点目は、教育相談の実施について、でございます。本日、4月26日から30日までの期間、担任を中心とした個別面談を行いますので、不安なこと、悩み、新たな学級での人間関係などで困っていることなどがあれば遠慮なくご相談ください。

2点目に、スクールカウンセラーについて、でございます。27日、28日、30日の3日間は教育委員会にお願いして、13時から17時の時間帯にスクールカウンセラーを派遣していただくことを先週末にご案内させていただきました。さらに本日、ゴールデンウィーク明けの5月6日、7日、10日にも派遣いただけることになりました。担任が面談する中で、心配な生徒にはスクールカウンセラーとの面談を働きかけます。また、保護者の皆様から見て、お子様に何かいつもと様子が違うなど不安や心配な様子が見られる場合には保護者のほうからお子様に「スクールカウンセラーと話ししてみたら?」とお声をかけていただきたく存じます。宜しくお願い致します。

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次に、生徒の安全安心に関する取り組みについてご説明をさせていただきます。生徒の登下校の際には職員が外に出て見守る取り組みを継続しております。また、旭川中央警察署に依頼して多くの生徒が登下校する時間帯や部活動で帰る時間帯には、学校周辺の巡回をお願いしているところでございます。保護者の皆様におかれましては登下校や部活動の際には、できるだけ複数で登下校するようにお子様への声かけをお願い致します。また、可能な範囲でご自宅付近の見守り運動などにご協力をお願い致しますとともに、何か不安なことがございましたら学校のほうまでご連絡をいただきたいと思います。

悪口やSNSでの誹謗中傷はイジメであることを生徒に考えてもらいたい

最後に、命の大切さと仲間作りについてご説明を致します。命の大切さにつきましては始業式の際に、「命はたった1つのものでかけがえのないものであること」を、そして、「相手の命も自分の命と同じようにかけがえないものであり、自他を尊重してほしいこと」を生徒にお願いしております。連休前に全ての学級で命の大切さや人権に関わる道徳の授業を行って参ります。

2点目に、学年集会の開催についてでございます。この学年集会では「イジメは決して許されない行為であること」、「悪口やSNSでの誹謗中傷はいずれもイジメであり、これらの行為は相手の気持ちを考えて行動することで防げること」などを、再度、生徒に考えてもらいたいと思っております。また、昨年度より、Y中学校の生徒のキーワードとして「私も大切。あなたも大切」を掲げさせていただいております。より良い学級、学年作りを目指して集会を行って参りたいと思っております。その際に、3年生のほうには進路の不安を解消する話も行わせていただきたいと思っているところでございます。以上でございます。

爽彩さんの事件に対応した教頭と担任は「誠心誠意対応していく」

司会 次に、本校の教頭、(担任の)教諭にお話をさせていただきます。

教頭 最初に、本校に在籍していた生徒が亡くなったことに対しまして、心から残念であり言葉になりません。ご冥福をお祈り申し上げます。また、ご遺族の方にはお悔やみを申し上げます。本校の生徒、保護者の皆様にご心配、ご不安な想いをさせておりますことをお詫び申し上げます。報道等に関することにつきましては、今後予定されている第三者委員会において誠心誠意対応して参ります。今、私ができること、そういった形ができるように皆様方に、できることに一生懸命、努力していきたいと考えております。今後、宜しくお願いします。

担任 このたび、本校に在籍しておりました生徒がお亡くなりになったことについてお悔やみ申し上げるとともに、ご冥福をお祈り申し上げます。生徒や保護者の皆様にご心配をおかけしていることをお詫び申し上げます。教頭先生と同様に、私も、今後予定されている第三者委員会において誠心誠意、対応して参ります。今後とも生徒に寄り添い、生徒や保護者の皆様のために尽力して参りますので、改めて宜しくお願い致します。

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“心の傷つき”ということについて対応して参りたい

司会 次に、教育委員会からの派遣によるスクールカウンセラーに、生徒の心のケアに関わるご説明をさせていただきます。

カウンセラー こんばんは。旭川市から派遣されてきました。スクールカウンセラーの××といいます。宜しくお願いします。今、このように私が前に立たせていただいて、とても緊張していますが、まず生徒が亡くなったということについて私も重く受け止めていますし、皆様も重く受け止められて、不安な想いになってるんじゃないかなと思います。まず、そのことについて、ご冥福をお祈りしたいと思います。

今、この会場もとても緊迫した雰囲気になっていますけれども、このような状況の中で子どもたちが生活していることについて皆様方もとても不安に思っていらっしゃると思います。まず、僕は、ここに来られている保護者の方にお願いをしたいということについて1つあります。それは校長先生からもありましたが、お子さんの様子について何か「違う」っていうことがありましたら、すぐに学校等にご連絡をいただければいいかなという風に思います。また、こういう状況の中では子どもたちは、とてもじゃないですけども、言葉で「助けてほしい」とか「困っている」とか、そういうことを言えないっていう場面も多々あります。それは、体の訴えとして出てくることがありますので、何か、お母さん、お父さんのほうで、お祖父ちゃん、お祖母ちゃんのほうで「何か心配だな」とかいうことがありましたら、すぐにでも学校にご連絡をいただければいいかなという風に思います。精一杯、子どもたちのことについて、また保護者の方の色んな、“心の傷つき”ということについて対応して参りたいと思いますので、宜しくお願いします。

亡くなった子の担任だった先生に、何を子どもは相談するんですか?

校長 今後も、安全安心、心のケア、そして学びの保障に、Y中学校の教職員がチームで取り組んで参りますので、どうぞ宜しくお願い致します。以上で、学校のほうからの説明を終わらせていただきます。

司会 次に、保護者の皆様からのご質問をお受けさせていただきます。お一人ずつお答えいたしますので、宜しくお願い致します。ご質問のある方は挙手をお願いします。

保護者A いいですか?(涙声)×年×組の生徒を持つ母です。担任は替わんないんでしょうか? 教育相談は、なんでその度に、子どもが言わないといけないんですか。教育相談ってそもそも何ですか? 亡くなった子の担任だった先生に、何を子どもは相談するんですか? 担任を替えてください。

校長 今、いただきましたご質問につきましては、ここで即答はできません。申し訳ございません。検討します。そして、あの、教育相談につきましては、養護教諭が一緒に入った形をとらせていただいております。本当に、子どもたちの心に寄り添えるよう、頑張って参ります。

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Y中が来た。Y中が来た』と他の学校から小さな声でささやかれてる

保護者B すみません。2年前のこの事件に関しましては、私たちは全然関係ないので、今日は、自分の子どもを守るためにどうしたらいいか……で、来ているんですけども。既に、昨日の(部活の)試合の時点で他の学校から小さな声でささやかれてるんです。「Y中が来た。Y中が来た」。今現在、子どもを守るために記者会見等は検討していないんでしょうか?

校長 この案件につきましては、複数の学校や警察が連携しておりまして、旭川市全体で取り組む案件となっております。そこで、市長、教育長から、旭川市としても今後の状況、方向性が公表されておりますので本校が独自で行える状況ではございません。申し訳ございません。

保護者B すみません。では、どのように子どもたちは対応するように伝えればいいですか? そうやって周りから騒がれた時に。ただ堂々としていればいいんですか?

校長 その辺のこと、本当に辛い想いに、十分に心を寄り添えるように学校のほうでもケアして参りたいと思います。本当に申し訳ございません。

保護者B すみません。個人的な意見で申し訳ないんですけれども。私もY中学校出身で、同級生から、全国から、連絡来てるんです。どうにかこの不名誉な、汚名を返上してください。お願いします。

「今回のことって隠蔽ですよね?」保護者の質問に校長は…

保護者C 2年前にいらっしゃった校長先生は、今日この場にいらしてないんでしょうか?

校長 来ておりません。

保護者C なんでですか?

校長 お気持ち、よく分かるんですけれども、今、本校の職員でないので、そのような状況にはならなかったです。申し訳ございません。

保護者C 今、教育委員会の相談役をされてるっていうことじゃないですか?

校長 そのところにつきまして、私どもの方からはお答えすることはできません。申し訳ございません。

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保護者C あと、「第三者委員会に調査を依頼します」って言ってますけど、本当に公平な立場の人が第三者委員会のメンバーなんでしょうか? そのメンバーの人たちの名前って公表してもらえますか?

校長 第三者(委員会)の構成等につきましては、私どもで対応、お話しできる内容ではございませんので、教育委員会のほうでですね、しっかりとそのメンバーについては今後公表されるかどうかについてですね、今現在、お答えすることはできないのでお許しください。

保護者C 教育委員会のほうが選ぶ第三者委員会って、本当に公平な立場の人なんですよね? 今回のことって隠蔽ですよね?

校長 今回のですね、発生した事案については関係する保護者、そして教育委員会や警察とも2年前から対応しているということで確認してるんですけれども。そういう状況でございます。

正直言って、この学校に入学させたことを後悔しています

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保護者C あと、先生たちの中でイジメの時のマニュアルとかあると思うんですけど、そのマニュアルが守られていたのか、守られていなかったのか、今の現在の、この時代にそぐわないようなマニュアルだったら改正したほうが良いと思うんですけど、その辺も検討していただきたいと思います。

校長 はい……「Y中学校いじめ防止に関する基本方針」にもとづいてですね、しっかり対応できるように教職員の研修含めて、しっかりと取り組んで参りたいと思います。ありがとうございます。

保護者C 正直言って、もう、この学校に入学させたことを後悔しています。今さら転校したって「Y中から来たやつ」っていうレッテルを貼られるだけじゃないですか。その子どもと親の感情を分かってください。

校長 大変重く受け止めて、頑張って参ります。

保護者C 宜しくお願いします。

校長 ありがとうございます。

(全文公開2回目へつづく)

5月21日(金)21時~の「文春オンラインTV」では担当記者が本件について詳しく解説、Y中学校でおこなわれた保護者会の音声もすべて公開する。

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